きずなへ
社団法人日本自閉症協会奈良県支部 自閉症児者支援ボランティア養成事業
平成13年度社会福祉・医療事業団(高齢者・障害者福祉基金)助成事業
第1回講座(自閉症理解のための基礎講座1)
平成13年7月14日 奈良県文化会館小ホール
奈良県支部自閉症講座 2001/7/1
「自閉症の基礎理解」
京都市児童福祉センター 村松陽子
(1)自閉症とは
・自閉症は,中枢神経系の異常によっておこる発達障害の一つ。
・自閉症と知的障害を併せ持つ人は多いが,自閉症と知的障害は別の障害。
・
診断は,行動の特徴によって行われる。
[自閉症(自閉性障害)の診断基準]ICD-10(WHO),DSMW(アメリカ精神医学会)より改変
@相互的な対人交流が困難
視線,表情,姿勢,身ぶりなどの非言語コミュニケーションを人とのやりとりを調整するためにうまく使えない
友人関係を(発達レベルに見合った形で)発展させることができない
対人交流や情緒の交流における相互性が乏しい
喜び,興味,達成感を人と共有することが少ない
Aコミュニケーションの障害
話しことばの発達の遅れ(身ぶりなどで補おうとしない)
会話を始めたり,続けたりすることがむずかしい
同じことばをくりかえし言う,独特のことばの使い方をする
(発達水準に合った形での)ふりあそび,まねあそびが少ない
B幅が狭く常同反復的な興珠や行動
常同反復的な興味に没頭する
決まった行動や儀式にこだわる
常同反復的な運動
物の部分や機能とは関係のない要素にこだわる
(2)自閉症の周辺の診断名について
a.自閉症概念の拡がり
@広汎性発達障害,非定型自閉症
自閉症の診断基準のすべてを満たさないが,対人関係の障害,コミュニケーションの障害,幅が狭く常同反復的な興味や行動の領域に自閉症と同様の特徴を持つもの。
A自閉症スぺクトラム障害
対人的相互交流の障害,コミュニケーションの障害,想像力の障害の3つ組の障害と,それに伴う狭くて反復的な活動やパターンを持っているものをいう。この3つ組の障害を持った人は知的に遅れのある重い自閉症から,知的に正常で軽い社会性の問題だけを持つ人まで,いろいろな人が連続的に存在していることが明らかになっており,これらの人をひっくるめて「自閉症スぺクトラム」と呼ぶ。
b.知的発達に連れのない自閉症(高機能自閉症スペクトラム,高機能広汎性発達障害)
@高機能自閉症
自閉症の診断基準を満たす人のうち,知的に遅れがない人(IQ70以上とするのものが多い)
Aアスペルガー症候群
いくつかの診断基準があり必ずしも−致していないが,自閉症スペクトラムのうち,知的能力に遅れがなく,かつ言語能力の発達にもはっきりした遅れのないものをさして使う。
c.「自閉的傾向」ということばについて
「自閉的傾向」ということばは,心理職,教育関係者,専門医以外の医者などによって使われている場合が多いが,医学的には,「自閉的傾向」という診断の定義は存在しない。個人的な経験では,自閉傾向と言われている人のほとんどが,「自閉症」または「広汎性発達障害」に相当するようです。
(3)自閉症の障害特性と援助
・自閉症と診断したら,自閉症の障害特性を知り,こちらが障害特性に合わせた対応をすることが必要。
・自閉症の人は,自閉症でない人とは,物ごとの感じ方,理解の仕方,行動の仕方,などに違いがある。「違い」を認識するところから自閉症の指導・援助は始まる。
・自閉症の人には「強いところ」と「弱いところ」がある。「強いところ」を生かしていく視点が有効。
a.自閉症の子どもの強いところ
自閉症でない人にはむずかしくても,自閉症の人には簡単にできることがある。
*視覚認知,視覚記憶が強い
*具体的なことはよく理解し記憶する
*決まったパターンの繰り返しに強い
*好きなことに対する集中力
b.自閉症の人にとってむずかしいことと,強みを生かした工夫
自閉症でない人には簡単なことでも,自閉症の人にとってはむずかしいことがある。
@まわりの世界が何を意味しているのかわかりにくい
・細かいところに注目するが大切なことに注目しない
・部分部分の情報はキャッチしていても全体をまとめて意味を把握することがむずかしい
・目に見えないこと,経験していないことを想像することがむずかしい
→→ 環境を整理してわかりやすくする
余計な刺激(目に入るもの,耳に入る音)を減らし,必要な情報だけにする
活動と場所を対応させ,できるだけ多目的に使わない
場所の境界,物の置き場所をはっきりさせる(印をつける,ラベルを貼る)
A見通しを持ちにくい,特に変化すると混乱する
・時間の流れを把握しにくい
・終わりがわかりにくい
・いつもの流れが変更されるとわからなくなる
→→ 時間の見通しをわかりやすくする
流れを一定にする
予定は前もって知らせる
時間の流れを視覚的に(文字,絵,写真,実物)示したスケジュールを使う
カレンダー,時計,キッチンタイマー,などの利用
B話しことばの理解がむずかしい
・ことばに注意を向けない
・ことばではなく,物事の流れや目に見える情報から理解していることがある
・言葉の意味を理解するのではなく,言葉を状況とセットにしたパターンで覚える
・ことばを話しているほどには,ことばを理解していないことがある
→→ 伝え方に工夫をする
「ことばでわかる」と安易に考えないこと
子どもの注意をひいてから話す
ことばかけは短く簡単にする
身ぶりややってみせることを組み合わせる
視覚的手がかり(実物,絵,写真,文字)を使って伝える
C抽象的なことやあいまいなことを理解することがむずかしい
たとえば,「早く終わりなさい」「ちょっと待ってて」「ちゃんと片づけなさい」「きれいにふきなさい」など抽象的なことやあいまいなことを理解することはむずかしい。
→→具体的に伝える,明確に伝える
「早く終わりなさい」→「あと1回で終わり」「10数えたら終わり」など
「ちょっと待ってて」→「○時まで待ってて」「タイマーがなるまで待ってて」など
D自分からのコミュニケーションがむずかしい(自分の気持ちを人に伝えることがむずかしい)
・コミュニケーションの手段が限られている(例:ことばがない,指さしやちょうだいの身ぶりをしない)
・手段は持っていても,人とのコミュニケーションにうまく使えない
→→子どもからコミュニケーションする力を育てる
コミュニケーションの機会を意図的に作る
話しことばがうまく使えない人には,ことば以外のコミュニケーション手段(絵や写真など)を積極的に使っていく
言葉が話せる人には,どのような場面でどういうことばを使ったらいいか教える
E人とのやりとりがむずかしい
・表情,しぐさ,雰囲気などがわかりにくく,他の人の内的な状態や感情が理解しにくい
(ほめられているのに知らん顔,怒られているのに喜ぶなど。微妙な感情の理解はもっとむずかしい)
・対人的やりとりでは,同時に多くの情報を処理しなければならず,変化が多くあいまいな状況であり,自閉症の人にはとてもむずかしい
→→こどもにわかりやすく,子どもが好きなやりとりをする
繰り返しのパターンや,ルールが明確な遊びでやりとりをする
子どもが好きな活動を選ぶ
少ない人数から始める
F感覚刺激に対して特異な反応をする(視覚,聴覚,触覚,味覚,臭覚)
・感覚刺激に対して過敏だったり鈍感だったりする
・感覚刺激が一度にたくさんは入りすぎてしまう。
・特定の感覚刺激に苦痛を感じることがある
→→ 感覚刺激をコントロールする
静かな場所を用意する,目に入る刺激が多すぎないようにする
強い苦痛を感じる感覚刺激は取り除く
G動機づけがむずかしい
・自分の興味のあることはするが,興味のないことを人からはめられたり認められたりするためにがんばることが少ない
→→ 興味を生かす
特技や趣味に
好きなことを教材にする
ごほうびとして使う(〜したらお楽しみ)
H自立して行動することがむずかしい
自分が何を期待されているのかわからなかったり,見通しがもてないために人から指示されないと行動できない「指示待ち」と言われる状態になる人がいる。自立して行動することは大人になってからの生活に不可欠だが,大きくなってから急に一人で行動するように言ってもむずかしい。
→→ 小さい頃から少しずつ自立してこうどうする力を意識して伸ばしていく
ひとりですることを意識した指導(声かけや援助をなるべく少なくする)
構造化,視覚的手がかりの利用
I般化がむずかしい
同じことを場面を変えて応用することがむずかしい
→→ 持っているスキルをいろいろな場面で使えるようにする
−つのことができるようになったら,場面(場所,人)を変えて教える。
(4)最後に
@自閉症にやさしい環境づくり
@視覚的に!
A具体的に!
B見通しを立てる(予測可能にする)
<どこで? 何を? どれだけ?
誰と? いつ終わる? 終わったら次に何が?>
C感覚刺激を減らしたり整理したりする
D役に立つパターンやシステムを作って生かす
E一貫性を持たせる
F肯定的に!
A個別の対応や指導・援助プログラムが必要
同じ自閉症でも,子どもは一人ひとり違います。考え方の原則は同じですが,具体的な方法は子ども一人ひとり違ってきます。それぞれの子どもの特徴をよく知って,子どもに合わせた方法や指導内容を考えていきます。
自閉症についての情報
《書籍》
*自閉症についてのガイドブック
「自閉症入門―親のためのガイドブック―」
バロンーコーエン,ボルトン書 中央法規 1854円
親のために書かれた入門書だが,幅広くいろいろな情報が含まれている。
「自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック―」
ローナ・ウイング著 東京書籍 2400円(税別)
イギリスの児童精神科医で,自身も自閉症の子どもを持つローナウイングによって書かれた繊細なガイドブック。新しい臨床的・学問的な内容も豊富で,内容は実際的で役に立つことが多い。
「子どものためのバリアフリーブック障害を知る本F 自閉症の子どもたち」
茂木俊彦 監修 大月書店 1800円
絵や写真を豊富に使って,わがりやすく解説してある。初めて自閉症のことを知るために良い本。
*TEACCHについての本
「自閉症のひとたちへの援助システム―TEACCHを日本で生かすには−」
藤村出,服巻智子他著 朝日新聞厚生文化事業団 500円
<書店にはないので,TEL:06−6201−8008へ申し込む>
TEACCHの構造化やコミュニケーション指導,余暇活動の捷助などについて,絵や写真入りでわかりやすく書かれている。実践を始めようと思っている家族や学校の先生などにお勧めの本。
「自閉症の人たちを援助するということ」
ゲーリー・メジボフ 朝日新聞厚生文化事業団 800円
TEACCHプログラムの最高責任者ゲーリー・メジボフがプログラムの全貌を語りました。自閉症及びTEACCHプログラム理解のための最良の書。
「自閉症療育ハンドブック―TEACCHプログラムに学ぶ−」
佐々木正美著,学習研究社 2400円
日本にTEACCHを紹介した佐々木正美先生によって,TEACCHの理念やアプローチについて書かれた本。佐々木先生自身のされた自閉症児の予後についての調査結果も含まれている。
*その他
「青年期・成人期自閉症の理解とその援助」
日本自閉症協会京都府支部発行 2000円
<書店にはないので,郵便かFAXで下記へ申し込む>
〒606-8333京都市左京区岡崎法勝寺町82 西松栄子 FAXO75-771-9065
京都府支部が行った連続講演会の記録。自閉症の基本から実際の援助まで絵や写真入りでわかりやすくまとめられている
「はじめの一歩 VISUALメッセージライブラリー6」
新澤伸子著 横浜やまびこの里発行 500円
<書店にはないので。TEL:045-943-9220へ申し込む>
よこはまやまびこの里の行った「自閉症セミナー」の講演録を冊子にしたもの。自閉症の子どもへの援助についての考え方や具体的な方法が書かれている。写真入り。
*高機能自閉症スペクトラムについてのガイドブック
「アスペルガー症候群 ―親のためのガイドブック―」
トニー・アトウッド著 東京書籍
アスペルガー症候群の子どもたちに対する具体的な指導法が豊富に書かれている
「自閉症 成人期に向けての準備 能力の高い自閉症の人を中心に」
パトリシア・ハウリン著 ぶどう社 2700円+税
「大人の自閉症の人」に焦点を当て,小さいときから成人期に向けてどんなことをしていけばいいのかということや,具体的なエピソードをたくさん取り上げ,「社会性」「コミュニケーション」「こだわり」のそれぞれの領域の問題にどのように対処したらよいのか等具体的に書かれている)
*自閉症の人によって手かれた手記
「自閉症の才能開発 ―自閉症と天才をつなぐ環−」
テンプル・グランデイン,学習研究社 2500円
自閉症を持った本人によって書かれた本。自閉症の人がどのようにまわりの世界を理解しているのかなどが書かれていて興味深く,自閉症の人の世界を知るために大変役に立つ。
「自閉症だったわたしへ」ドナ・ウイリアムズ 新潮牡 2000円
「ずっと『普通』になりたかった」グニラ・ガーランド 花風社 1700円
〈インターネットのホームページ〉
*日本自閉症協会京都府支部(ASK):
http://web.Kyoto-inet.or.jp/org/atoz3/ask/
支部が開催したセミナー等の講演録,TEACCHのホームページからの翻訳,自閉症理解のためのパンフ・自閉症の人たちの作品集,ブックリストなどいろんな情報があります。自閉症関係の他のホームページにリンクしています。
*ニュースレターSHAREのWWW版(日本自閉症協会愛知支部発行)
http://www.nucl.nagoya-u.ac.jp/~taco/aut-soc/share/
*ダダ父通信
http://www.nucl.nagoya-u.ac.jp/~taco/dada/
きずな