登校のバスの時間になると、鞄を背負ってテレビと電気を消し「バス、イコー」
と、ニコニコ顔で家を出る健太。いろんな人たちと出会い、たくさんの人に支えら
れて、こんをに楽しい毎日がくるとは思っていませんでした。
一つひとつの成長
一九八八年八月一六日、わが家の長男、健太は生まれてきました。はじめての出
産で、陣痛促進剤とバルーンを使い、私にはかなりつらい一日でした。
小さいながらも元気でほとんど手のかからない子どもでしたが、三歳のときに
「自閉的傾向がある」と診断され、それからいろんな医療機関、施設とのかかわり
がはじまりました。最初は「何で、この子が…」と、現実から逃げていましたバで
も、児童相談所から紹介された通園施設を見学にいったときに、「この子だけじや
ない。仲間がいてみんながんばっている」と、元気をもらったことを思い出します。
通園施設の園長先生に「がんばれば必ず成長しますよ」と心強いことばをいただ
き、入園することになりました。はじめてのバス通園、母子分離ということで不安
でしたが、ほとんど休むことなく通園することができました。ちょうどそのころは、
多動、偏食、いろんなことへの「こだわり」と、大変な時期でしたが、先生方のご
指導のおかげでがんばることができました。卒園式で名前を呼ばれた健太が、「ハ
イ」と返事をして卒園証書をいただいたときは、主人と二人ただ涙するばかりでし
た。
小学校の選択では、地域の小学校と養護学校に何度も足を運び、養護学校への入
学を決めました。しかし、地域の小学校とは現在も交流させていただいております。
入学してからは、先生方の熱意のもと、すごく落ち着き、ことばだけの指示で動け
ることが多くなり、偏食もほとんどなくなって、苦手だった自転車にも乗れるよう
になりました。まだまだ、いつもと違う環境になるとイライラしたりすることも
ありますが、一つひとつのことを乗りこえていける力がついてきました。
それとともに、何かをやりとげた「達成感」がわかるようになり、ほめてあげる
とすごく得意そうな顔をし、鼻の下をのばして笑います。友だちとのかかわりもで
きてきて、「学校、楽しい?」と聞くと「ハイ」と手をあげている健太です。
「続む会」に参加して
学校の先輩のお母さんに「みんなのねがいを読む会」があることをお聞きし
月に一度の会に参加させていただくようになり、三年がすぎようとしています。
学校の先生やお母さんたちと、毎回いろんな記事を読み、意見交換をしたりしてい
ます。障害種別、年齢もきまぎまですが、他のお母さん方とテーブルを囲んで語り
合う機会がなかなかもてない私には、すごくありがたい場所の一つになっています。
「読む会」の間、子どもたちは大学生のボランティアさんに保育をしてもらってい
ます。毎回、楽しい保育内容を考えてくださり、健太も二歳九カ月違いの妹も「今
度は、いつあるの?」と心待ちにしています。子どもたちにとっても学校の先生以
外の人たちとかかわれる、貴重な時間になっていると思います。現在会では、子ど
もたちの放課後の充実、長期休暇の問題なども考えているところです。
ゆとりか生まれて
いろんな世界が広がってきた健太を見ていると「私も、もっとたくさんの人と出
会いたい」と思うようになり、仕事に出かけるようになりました。今までは毎日、
無我夢中で生活してき、仕事のことなど考えられなかったので、ウソのようです。
子どものことを全部話し、理解してくださる会社に出合えたことはすごく幸運で
した。勤務時間は子どもが登校している間です。仕事に出るようになり忙しくなっ
たのですが、自分の好きな仕事につけたことで、「逆に余裕がもてるようになって
きました。
今までは、あれもこれもと欲張りすぎて、一度にいくつものことを健太にさせて
いました。ですが、「一つひとつ、ゆっくり確実に…」と思えるようになり、ゆっ
くりと健太とむかいあい、楽しんで一つひとつのことにとりくんでいけるようにな
りました。
家族の協力があったから
母親になって一〇年、その間山あり谷ありで、心身ともに不安なときもありまし
たが、ぞれを支えてくれたのは、お父さんの協力があったからと、あらためて感謝
しています。お父さんは私がいつも明るく、心身ともに安定していることが家庭円
満の秘訣だと思っているそうです。
どんなに仕事が忙しくても、必ず健太とかかわる時間をもってくれています。ダ
イナミックな遊びをしてくれるので、健太はお父さんが大好きです。これから思春
期にむけ、今以上に父親の役割が増えるでしょうが、安心してまかせられそうです。
そして、もう一人の支えは娘でした。一番甘えたいときに、ほとんどかまってあ
げるごとができませんでしたが、彼女なりにお兄ちゃんのことを理解しているよう
で、よくお手伝いをしてくれます。「お兄ちゃん、こんなことできるんやね。すご
いね」と小さな発見をしては喜んでいます。二人の仲は、良き遊び相手、良きライ
バルといったところでしょうか。二人で遊んでいるときの笑顔は、まぶしいほど輝
いています。
「いろんな経験をさせてあげよう」と思い、わが家では全員でよく外出していま
す。キャンプ、旅行など、いろんな所にでかけ、そこでたくさんの人たちに、あり
のままの健太を見てほしいのです。大泣きされて、周囲の注目をあびたこともしば
しばありましたが、苦手な場所でも、回を重ねるごとに笑顔が出てくるようになり
ます。家にじっと閉じこもっていては何もはじまらない、どんなことにでもチャレ
ンジしていける家族でありたいと思っています。
* * *
これから先も、さまざまな問題があると思いますが、家族、先生、友だち、そし
てたくさんの仲間とともに、助けあい、励ましあって何事にも負けないで歩いてい
こうと思っています。わが家の合いことば「さぁ、今日も一日、元気でがんばろう
ね」というかけ声とともに…
(すぎとう まみ 奈良市)