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平成10年度
西日本自閉症実践療育セミナー
−正しい自閉症の理解を−
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子育て支援基金による事業
日 時 平成10年12月3日(木)〜6日(日)
会 場 天満研修センター
主催 社団法人 日本自閉症協会
後援 厚 生 省
文 部 省
社会福祉・医療事業団
(社福)朝日新聞大阪厚生文化事業団
(財)日本知的障害者愛護協会
西日本セミナープログラム
12月3日<木>
【開講式】・主催者あいさつ
江草安彦(日本自閉症協会会長)
◇講義「自閉症の診断、自閉症の概念」
内山登紀夫(大妻女子大学)
◇講義「自閉症の疫学・早期発見」
本田秀夫(横浜リハビリテーションセンター)
◇講義「高機能自閉症」
神野陽子(京都大学)
12月4日<金>
◇講義「自閉症と精神障害」
金生由紀子(東京大学)
◇講義「自閉症の心理学」
田中浩一郎(京都市児童福祉センター)
◇ビデオセッション「幼児期の療育」
安倍陽子(横浜市何南部療育センター)
◇ビデオセッション「学校教育における教育実践」
安部博志(筑波大学附属大塚養護学校)
12月5日<土>
◇親の立場から「イギリスとの比較して」
鈴木正子
◇講義「家族支援」
久保紘章(東京都立大学)
◇講義「余暇支援」
後藤邦夫(筑波大学)
◇基調講演「自閉症への福祉援助」
石井哲夫(日本自閉症協会副会長)
12月6日<日>
◇講義「施設における援助」
奥野宏二(あさけ学園)
◇講義「就労援助」
梅永雄二(明星大学)
◇「自閉症最近の話題から」一認知と情緒の発達と社会適応−
太田昌孝(日本自閉症協会理事)
【閉講式】
初日
「自閉症の診断、自閉症の概念」
大妻女子大学
内山 登紀夫
T.自閉症の歴史
1.カナー以前
2.レオ・カナー(1943)
3.ハンス・アスペルガー(1944)
4.ウイングとグールド(1979)
5.ICD−10(1992)
6.DSM一W(1994)
7.自閉症スペクトラム(1996)
U.自閉症スペクトラムのサブグループ
1.カナー症候群(クラシックタイプ)
2.アスペルガー症候群
3.その他
V.自閉症の診断
三つ組み(社会的相互作用,
1.社会的相互作用
i. 孤立群
ii. 受動群
iii. 積極・奇異型
2.コミュニケーション
3.想像力
◆反復行動
その他の行動特徴
感覚刺激への反応
運動
不安
注意力
動機
特殊な能力
W.他の障害との関連
◇ 自閉症は他のどんな心理学的・精神科的、身体的障害とも合併しうる
・知的障害
・神経疾患
てんかん
結節性硬化症
ウエスト症候群
ツーレット症候群
ダウン症候群etc
・聴覚障害
・視覚障害
・発達性言語障害
受容性
表現性
・特異的発達障害(LD)
書字障害
読字障害
計算障害etc
・多動性障害
・語義一語用症候群
・精神疾患
うつ病
躁うつ病
不安性障害
精神分裂病?
・性格障害?
X.「誤診」について
1.発達障害における診断の軽視
2.医師の知識・自信の不足
3.医師以外の職種による「ひかえめな」診断
4.親のショックへの「配慮」
曖昧な説明
「ひかえめ」な診断のほうが親・専門家に好まれる
5.劣悪な「診断環境」のための情報不足,観察不足
健康保険制度の功罪
無形の情報に対する評価の低さ
6.「一人の子どもには一つの診断」という認識不足
平成10年度西日本自閉症実践療育セミナー
自閉症の疫学、早期発見
横浜市総合リハビリテーションセンター
本田秀夫
「疫学」ということばは、一般にはあまり馴染みがないかもしれません。「早期発見」
の方は、このことばを耳にしたことのある方が多いでしょう。両者とも、疾病の解明と克
服という医学本来の目的にとって重要な意義をもっている、という点では共通しています。
この講義では、まず自閉症の疫学のなかでも最も基本となる資料である頻度(どのくらい
いるのか)について、これまでにわかってきたことを紹介します。つぎに自閉症の早期発
見について、その意義や問題点を解説し、これを基盤とした臨床の場のあり方を考えます。
T 疫 学
1.疫学とは?
定 義 :人間集団の上にあらわれる医学的現象を取り扱う学問
対象と方法:集団を対象として疾病の頻度や分布、臨床像の特徴を探究する
意 義 :健康にかんする諸問題の原因解明(医学)と対策樹立(行政)
2.自閉症の頻度 一自閉症はどのくらいいるのか?−
@「ヤミクモの時代」(1940年代から1960年代前半)
Kanner(1943)の報告から20年以上にわたって頻度調査がなされなかった
診療所受診例のみから得たデータをもとにした誤解(例:親の社会階層)
A有病率調査にもとづく「神話」の形成(1960年代後半から1980年代)
1966年に、はじめての自閉症の有病率調査がイギリスで行われた(Lotter)
・・・有病率は4.5/1万、男女比は2.6:1
→1970年代から1980年代にかけて、欧米と日本で多くの有病率調査が行われた
・・・「1万人につき2〜5人、大多数が知的障害を伴う」という「神話」
B自閉症槻念の変遷と有病率の「増加」
1979年、WingとGouldによる「障害の三つ組」の提起と、その有病率調査
・・・Kannerの概念に当てはまる自閉症の有病率は4.9/1万
相互的な対人関係に障害のある子どもの有病率は21.2/1万
→「障害の三つ組」は、1980年代以降の国際診断システム(ICDとDSM)に影響
二重の概念拡大(自閉症概念の拡大、「自閉症スペクトル」の提唱と浸透)
→自閉症は以前考えられていたよりも多いとの報告が1980年代後半より続出
C頻度調査の新しい展開:「神話」を越えて
・はじめての発症率調査(Hondaら、1996)
・・・発症率は16.2/1万、有病率は21.1/1万、半数は高機能自閉症
・はじめてのアスペルガー症候群の有病率調査(EhlersとGillberg、1993)
・・・有病率は36/1万、疑診例や可能性のある例も含めると71/1万
・自閉症スペクトル全体の有病率にかんする推定(Wing、1996)
・・・推定値は91/1万(!)
3、高機能自閉症や軽症の自閉症スペクトルの「増加」は何を示すのか?
U 早期発見
1、早期発見とは?
観 念:症状が明らかになる前に疾病を発見すること
方 法:検診などスクリーニングが主要な方法となる
意 義:早期治療の効果がある場合にのみ意義がある
2、自閉症の早期発見
@自閉症の「早期」とはいつ頃をさすのか?
A誰が発見するのか?
Bどうやって発見するのか?
C確実に発見できるのか?
D早期発見すれば早期治療の効果が保障されるのか?
E早期発見/早期治療の効果をどうやって測るのか?
F早期発見はどんな地域でも広く行われているのか?
3、集団スクリーニングによる自閉症の早期発見
@イギリス
CHAT(CHeklist for Autism
in Toddlers; Baron−Cohenら、1992)
A日 本
1歳6カ月児健康診査
4、早期発見と早期療青 --地域におけるネットワークの必要性
高機能自閉症(High−Functioning
Autism)
京都大学医学部精神医学教室
神尾 陽子
(1)用語の定義 公約数的には、IQ65〜70以上を高機能自閉症と呼ぶ場合が多い。
(2)有病率 0・1%前後(横浜) 男子≫女子
(3)その意義:今、なぜ高機能自閉症が注目されるのか
臨床的なニーズ
学問的な意義
(4)高機能自閉症と、精神遅滞を伴う自閉症にみられるそれぞれの行動特徴の比較
| 高機能自閉症 | 精神祥遅滞を伴う自閉症
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対人間の相互交流 | 積極奇妙型 | 孤立型、受動型
| 一方的 | 一方的
| |
コミュニケーション | 言語流暢・非言語的表現あり | 理解や表出が乏しい
| 場面に不適切な独特の使用 | 場面に不適切な独特の使用
| |
行動や興味の | 常同的ルーテイン〜 | 常同運動〜強迫的行為
反復常同性 | 強迫的思考 |
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てんかん | 少ない |(乳児期と思春期に)多い
| |
パニック | 自傷(−)攻撃(+) | 自傷・攻撃(+)
| |
合併する精神状 | 多様な主観的体験あり | 主観的体験が不明
| あらゆる種類の精神医学的 | 診断困難
| 障害の出現の可能性あり |
(5)(高機能)自閉症の認知特徴
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| 長所 短所
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ウェクスラー知能検査 | 積木模様、数唱 理解、絵画配列
|
言語性記憶 | 言葉の羅列的な記憶 文章の記憶
| 無関連語の記憶 関連語の記憶
| 継時的順序性に関する記憶
| 形態的、音韻的処理 意味的処理
|
視覚的処理 | パターンを覚え込む パターンを発見する
| パズルを形ではめ込む 絵ではめ込む
|
人の顔の理解 | 目鼻立ちで顔を識別する 表情で顔を識別する
| 倒立像の顔の識別 正立像の顔の識別
意味利用 | 絵による意味連想 言語による意味連想
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(6)各発達段階における臨床像
幼児期 言語の初期発達は遅れることが多い.
人見知りや後追いなどの愛着の発達は弱い.
幼稚園などの集団活動で遊べないことが明らかになる.
学童期 普通学級での学校適応は困難を伴い、子どもの特性を理解
たうえでの個別配慮の必要性が大きい。
クラス内では目立った存在となる(良い意味でも悪い意味
も)。いじめの対象となることもあるので注意が必要。
教えられた規則や知識を、理由を問わず機械的に覚え、行動
する。
青年期 「学校不適応」が大きい場合は、中学生〜高校生以降に行動異
常に発展するような一時的精神的混乱を生じることがある。
自己意識と他者意識の芽生え。独自の意味づけを行う。
(7)高機能自閉症児を理解するために:援助に必要な視点
一私は自閉症なので、情報を統合するのに普通の人が当たり前と思っているやり方ではしない。かわりにCD−ROMのディスクに記録するように、頭の中に貯めていく。ため込んだ情報を呼び戻すときには、ビデオを私のイメージの中で再生するのである。
− Temple
Grandin自伝より
一血統的に純粋な日系人が、日本に来て流暢な日本語で日本人らしく付き合おうとすると、かえって互いに誤解が生じる、という話に似たようなことが、周囲と違う「文化」を持つ、より適応した自閉症者についても言えると思う。
一多くの日本人と同様、私自身は「協調性」は、とても大切なことだと考えている。そして、どんなに努力しても、自分にはその能力が与えられなかったことも認識している。そして、あるものに目を向けないで、ないものばかりをねだったことが、感謝の不足であることも知っている。そして、あるものをずっと無視し、ないものばかりをことさら、問題にし続けてきた社会が、ネガティブなものであることも知ることができた。・・・・(中略)・・・生まれながらにどのようにしたら、それが社会の役にたつかを考えていくのが自然の道だと思う。・・・(中略)かくいう私自身は、自閉症と戦ってきた一人であった.そして今は、そうしてきたことを深く後悔している.戦いというのは破壊であり、それはせっかくの神様からの賜物を殺すことである.何故ならその戦いは、自分をより「普通に」へと導いてきたかもしれないが、一方で普通にはない特質を、少なからず失ってきたからである。
− 森口奈緒美自伝より
#コミュニケーションのチャンネルの発見と理解、そして馴染む学習方法を見つける。
彼ら独特の「言語」を理解したうえで、チャンネルに合った言葉を選んでかかわる。
周囲の過剰で不適切な言葉かけが、彼らを混乱させていることがしばしばある。
われわれの「言葉」についての再考が必要。
視覚的思考スタイルを理解し、それに馴染むように、具体的な対人的コミュニケ
ーションや社会のルールについて、学んでもらう。個別の工夫が大切。
#彼らの興味と一致した能力を伸ばす。
興味を通して、自信が育ち、他人との交流のチャンネルを見つける可能性が開ける。
二日目
自閉症と精神障害
東京大学医学部附属病院精神神経料
金生由紀子
T.自閉症に合併する精神障害の診断と治療
1.合併する精神障害の診断とその意義
自閉症に精神障害を合併することがある、または、自閉症の行動上の問題が精神障害の
合併による場合があるということが、明らかになっている。このような二重診断の考えは
DSM−V以来の操作的な診断基準の普及に関連していると共に、「自閉症だから(仕方な
い、)」として行動上の問題を片付けてしまわずによりよい理解と治療を求めて診断を検討
してきた流れも受けている。そして、発達の水準や自閉症に特有な認知、情緒、行動を踏
まえた上で診断できるような工夫もされてきている。
合併する精神障害を診断することによって、そのような観点から自閉症児・者の行動を
再検討して、その精神障害への治療も含めて自閉症児・者への働きかけ全体を考え直すこ
とができるようになる。さらに、その精神障害と自閉症との関連の検討を通して自閉症の
本態に迫る手がかりが得られる可能性もあると思われる。
2.合併する精神障害の治療の概略一薬物療法を中心に一
合併する精神障害の治療法としては、(広義の)精神療法や環境調整、薬物療法などが
あげられる。精神療法や環境調整は治療の基本を形作る。同時に、薬物療法は治療教育的
なアプローチだけでは困難な場合に治療を進展させる上できわめて重要である。
ここでは、薬物療法について概説しておく。
1)薬物療法の留意点
-
自閉症児・者が薬物療法から受ける利益全体が不利益全体を上回っていると考えられ、
インフオームドコンセント(検査や治療の際に、説明して同意を得てから医療行為を開
始すること)が得られた場合に、薬物療法が開始となる。
A薬物療法を受ける自閉症児・者の家族や療育・教育担当者などは、薬物療法の内容、
標的症状、期待される効果、対処が必要な副作用とその対策について十分に理解しておく。
B服薬を開始したら指示通りにして、勝手に中断しない。服薬が不規則になった場合に
は、そのこと及びその理由を医師などにきちんと伝える。
C強い副作用と思われることが起った場合には、早急に医師などに連絡する。
D自閉症児・者の行動は場面によって大きく異なるので、薬物療法の的確な評価のため
に主な活動の場面における情報を総合する。
E薬物療法開始後の自閉症児・者の状態の変化には、薬物のみでなく他の働きかけや環
境の変化なども影響することを念頭におく。
2)向精神薬の種類
精神障害の治療に用いられる主な向精神薬は以下の通りである。
@神経遮断薬(抗精神病薬あるいは強力安定剤、メジャートランキライザー)
・高力価:ハロペリドール、ピモジドなど
新しく使用できるものにリスペリドンがある
・鎮静的:クロルプロマジン、チオリダジン、
プロペリシアジン、レボメプロマジンなど
A抗不安薬(緩和安定剤、マイナートランキライザー)
ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系が主である
B抗うつ剤
クロミプラミンが強迫症状に有効とされる
選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)もアメリカなどでは使用されている
C抗躁薬あるいは気分安定薬
躁病や躁うつ病などの治療に用いられる
炭酸リチウム、カルバマゼピンなど
D中枢刺激薬
E睡眠薬
多くはベンゾジアゼピン系である
U.自閉症に合併する主な精神障害の特徴
1.気分障害、周期性気分変動、抑うつ状態
自閉症における気分障害については多数の報告がある。但し、自閉症ではそもそもコミ
ュニケーションに障害があり、特に発達の遅滞が大きい場合には、抑うつ気分や爽快感を
確認することは困難である。従って、行動の変化から、周期性気分変動とか、減動増動状
態とするしかないことが多い。
薬物療法としては、気分安定薬を基本にして、神経遮断薬などを適宜加えることで気分
変動の幅を減らして安定させることができる。減動状態に抗うつ剤の単独での使用は適切
でないことがある。
2.不安障害、心因反応、神経症様状態
自閉症は環境要因に敏感であり、しばしば心因反応を起こし得る。心因反応で、不安が
高まるのみならず、抑うつ的になることもあれば、妄想的になることもある。
対処にあたっては、自閉症児・者の発達の水準、感覚の過敏などの特性を把握した上で、
環境要因に反応した心理過捏を推察する。課題や働きかけ方、環境の調節をまず試みる。
高機能の場合には、本人の気持ちを受け止めた上で、具体的な対処を相談するという精
神療法も行なう。これらでも改善しない場合には、薬物療法として神経遮断薬や気分安定
薬を用いる。少量の抗不安薬の追加は有効なことがあるが、大量の抗不安薬ではかえって
混乱することが多い。
3.強迫性障害、強迫症状
強迫症状とは、自我異質性(やりたくないと思うのにやらざるを得ない)や不合理性(
ばかばかしいと思うのにやらざるを得ない)を有するものである。自閉症ではこれらを確
認して強迫症状と確定するのは困難であるものの形態的には類似した反復症状や儀式的行
動が多い。また、高機能の場合には、自我異質性や不合理性を確認して強迫性障害と診断
できる場合もある。
薬物療法としては、一般には有効とされるクロミプラミンの使用は慎重にした方がよい。
4 トウレット症候群
多様性の運動性及び1つ以上の音声チックが種類、強さ、頻度、部位などを変動しなが
ら長期間続く重症のチック症である。自閉症では、一般人口よりも高率に登トウレット症候
群が合併することが知られている。トウレット症候群に特徴的な“ぴったり”にしようとす
る強迫行為と自閉症のこだわり、強迫様症状との類似も興味深い。
薬物療法としては、少量のハロペリドール、ピモジドの服用が必要かつ有効である。
5.精神分裂病、幻覚・妄想状態
白閉症はそもそも精神分裂病の最早期として想定されていた歴史がある。現在では、自
閉症と精神分裂病とが異なっていることが明確となっている。但し、脳機能障害があると
いうことは、精神分裂病になる危険性が高いと言えるかもしれない。
実際には幻覚や妄想の存在を想定しても、気分障害についてと同様に確認が困難なこと
が多い。また、他者の意図がわからないことなどから反応性に妄想的になることもあり、
幻覚・妄想状態とした方がよいことが多いと思われる。
薬物療法としては、神経遮断薬が用いられ、比較的少量で有効な場合がある。
6.その他の精神医学的問題:“カタトニア”様状態、不登校
おわりに
自閉症において精神障害の合併を診断することは実際には必ずしも容易ではない。自閉
症児・者をよりよく理解するという観点から、精神障害が合併する可能性があることを頭
の片隅に置いておくことは大切であろう。
また 自閉症には特有な認知、情緒、行動の障害があり、そこに精神障害が合併すると、
その精神障害が単独の場合よりも重症であったり、症状の現れ方や薬物療法への反応な
どが異なることがあり得る。それらの異同を検討することによって、自閉症の治療に役立
つと共に本態解明に何らかの手がかりが得られるかもしれない。
平成10年度自閉症実践療育セミナー 大阪セミナー(’98.12.4)
「自閉症の心理学 一療育・教育に向けて−」
京都市児童福祉センター 児童心療科 田中 浩一郎
T.自閉症とは何か?
@概念と治療法の歴史的変遷
情緒障害(心因性)−−−−一一一精神病一−−−−一一−一一一→発達障害
受容的心理療法 薬物、電気ショック療法 療育・教育
(’50.’60年代) (’50年代) (’70年代から現在)
A ’70年代以降の基本障害についての流れ
Rutteの言語認知障害説−−−−−一一→対人関係障害
Hobsonの感情認知障害説 心の理論(theory
of mind)
中枢牲統合説(central
coherence theory)など
2.心理学的研究
<心の理論(theory of mind):Baron−Cohen、Leslie、Frith>
@「心の理論」とはどのようなものか
・心の理論の発達障害があると、早期から他者の行動意図の理解ができない
これはコミュニケーシヨン能力の発達を妨げる
・対人志向性障害一一一一コミュニケーシヨンの本質的障害
A典型的な実験モデルの紹介
・サリーとアンの実験(図1参照:1次の誤信念課題)
・ジョンとメアリーの実験(図2参照:2次の誤信念課題)
B「心の理論」で説明しきれないこと
・限局的興味、同一性保持欲求、優れた機械的記憶などの特徴
・実験課題をクリアーしてしまう自閉症児がいる
→「心の理論」の障害が自閉症の一次的・中核的な障害であるという伝説は一部否定
・正常知能の聴覚障害児にも「心の理論」の課題をクリアーでさない子どもがいる
→「心の理論」の障害は自閉症児だけに特異的な障害ではない
<中枢性統合説(central coherence theory):Frith>
@ 中枢性統合説とはとのようなものか
・ 自閉症の認知面の強みと弱みの原因は、さまざまなしベルの情報の統合の特殊な不均衡状態である
・ 正常な情報処理過程では、さまざまな情報を統合して脈絡の中で高次の意味を構築する傾向ガあり、自閉症はこの情報処理過程の特徴が障害されている
A実例、実験モデルの紹介
・弱い統合性の実例(図3参照)
・積み木模様テスト(図4、5参照)
B中枢性統合説の優れたところ
・言葉の羅列的な記憶、パターンを正確に覚える、描画態力なとの説明もでさる
C療育・教育へのヒント
・自閉症の人は部分的な情報に注意を向ける必要のある課題、つまり断片的な処理過程の必要な課題は得意で、全体的な意味の理解を必要とする課題ほ不得意である(Frith)
−一一→構造化(明確化)のヒント
・中枢性統合が弱いことが強みになる状況がある
全体に惑わされないこと、細部に強迫的なところが課題の種類によっては有利に働く
−一一→作業課題や就労の際のヒント
3.早期療育と教育−−−一認知行動療法的アプローチの必要性
<自閉症へのアプローチ>
@初期の受容的心理療法について
・心因的(親の育て方など)に基づく
・子どもを全面的に受容する、親からの悪影響を絶つために施設収容することも…
――−→心因論の否定、受容的心理療法は効果がないことがわかった
A行動療法的アプローチ
・ 学習理論に基づくオペラント法:行動変容に一定の効果があったが、全体の機能に対する評価が乏しい、長期評価が乏しい、一般化が難しいなどの限界が生じた
−−一一より広い観点から行動療法的アプローチが行巾れている
行動療注の考え方は有用な点が多い
B教育的アプローチ
自閉症の生徒は、構造化されていない教育環境より、構造化された環境での方がよく力を発揮でき
る 機能レベルの低い子どもは、高い子どもより多くの構造化を必要とする
3種類の教育プログラムの比較(自由遊び強調のプログラム、特殊教育によるスキルの習得と受容
的対応を組み合わせたプログラム、スキル発達を重視した構造化プログラム)
構造化プログラムが最も有効
C認知機能に合のせたアプローチと個別化されたプログラムの必要性
・話し言葉の理解が難しい一→視覚的優位性
・パターン化されたものへの強さ
など自閉症の得意な面を利用していく必要あり⇒⇒⇒構造化の工夫
<自閉症の特徴と工夫の仕方>
@話し言葉の理解が難しい 一→視覚的に提示する
A自分のニードを相手に要求したり、嫌なことを拒否−→コミュニケーションを積極的に教える必要がある
B状況にあった行動がとれない、 −→何を要求するのかをはっきり、視覚的に提示する
C模倣が弱い −→モデリングだけに頼らず、視覚的に提示する
D相手の感情に対する反応が少ない −→感情をはっきり大袈裟に表現する
E物事の関係の理解が難しい 1 一→物事の関連づけを具体的にはっきり示す
F物事を順序立てたり、整理して考えることが難しい−→ルーティン(決まった手順)を使って組織化する
G細部に注目し固執するため全体を捉えられない−→視覚的にわかりやすく提示する
H重要なものと重要でないものとの区別が難しい―→重要なものを視覚的にはっきりする
I注意が集中しにくく、気が散りやすい 一一感覚刺激をコントロールする必要がある
特定の感覚刺激に苦痛を覚える
Jはじめと終わりを理解すること、時間の観念を−→視覚的にスケジュールを提示する
理解することが難しい 終わりをはっきりさせる
K一般化、応用が難しい 一→同じことを場面を変えて教えることが必要な
場合がある
L 遊びが苦手 遊び、余暇活動を教える必要がある
M発達が不均衡 一→全般にわたって綿密に評価する必要がある
<構造化について>
@目的・効果
・環境のもつ意味(構造)が理群(認知)しやすくなり、見通しが立てやすくなる
・自分に何が期待されているのかがわかりやすくなる
・不安や混乱を防ざ、安心して落ち着いて行動でさるようになる
・効率的な学習を助ける
・地域でできるだけ「自立」して生活できる手助けになる
・自分の行動を自分でコントロールするための手段になる 、
A構造化とは
A.場所の構造化(物理的構造化):どこで何をすればよいかわかりやすくする
・一つの場所を多目的に使わない
例えば学校の教室で 学習、作業をする場所(ワーワエリア)
食べ物を食べる場所(フードエリア)
自由に遊ぶ場所(プレイエリア)
スケジュールが置いてある場所(トランジッションエリア)など
・各々の場所の境界は目で見てすぐわかるようにする
色の違うマットを敷く、ついたてや棚で区切る
・気が散らないようにする工夫
よけいな物を置かない、ついたてを使う、壁に向かう、静かな場所
・どのような構造化がどの程度必要かは子どもによつて一人一人違う
・年齢が小さい子ども、発達レベルの低い人ほど厳密な構造化が必要など
B・時間の構造化(スケジュール):いつ何をすればよいかをわかりやすくする
・何を使うか
実物/絵/写真/絵や写真と文字/文字
・どのくらいの長さにするか
次の一つだけ/2〜3個/半日/1日
・持つて移動するか、1カ所に置いておくか
カード式(カードを持つて目的の場所まで行く)
リスト式(一カ所に置いて、終わったら消す)
C.学習や作業の手順の示し方(ワークシステム)
:何を/どのくらいの量すればよいか/いつ終わるのか/終わったら何があるのかを
わかりやすくする
・上から下、左から右の流れ
・色・形・数字・文字のマッチング
D.視覚的にわかりやすくする工夫
・教材を容器にまとめておく
・空間を分割する(例えばテーブル拭き、掃除など)
・色別にする:色で誰の物かわかるようにする、物を置くところに色を付ける
・ラベルを貼る:タンスの引き出し、靴箱、ロッカー
・汚れを目立たせる
・視覚的な指示:完成品の見本/ジク(組立図)/文字による指示書
E・決まつた手順をつくる(ルーテイン):自閉症の特徴を使い、良いパターンを積極的に作つてい<
・トイレの後、手を洗う
・食事の後、食器を流しに持つていく
・勉強をした後、遊ぶ
・−つの活動が終わつたら、スケジュールをチェックする
F・上→下、左→右の流れを身につける:作業をするときの手がかりになる
・風呂で体を洗う順番
・歯を磨く など
幼児期の療育
横浜市南部地域療育センター
心理:安倍陽子
1.子どもの特徴を理解していく。個別的な視点や配慮が重要である。
自閉症の特徴、発達レベル、発達パターン、強いところ、弱いところ、
興味あるもの(物・人)や得意なものは何か、など
フォーマルな評価:田中B知能検査、PEP−R、WPPSI、WISC−Vなど
インフォーマルな評価:日常生活スキル、生活地図、家庭での過ごし方、
週末・長期の休みの過ごし方、など
みんな話し言葉を理解しているわけではない、伝える際にもその子どもに合った伝
え方を考える。常に自閉症の特徴と個人の特徴を理解していくこと。
2.家族からの情報と協力関係が絶対に必要である。又、いかに家族支援をしていける
かを考える。
1)精神面のフォロー
・「障害受容」が困難であることを受け止める。
・自閉症の家族は、ストレスが高い。
・各家庭のライフスタイルの尊重、兄弟姉媒の問題、など
2)家族のプログラムヘの参加・・・具体的なアドバイスが不可欠である。
ミーティングヘの参加、指導場面の参加、家庭訪問の実施、父親参観、など
3)家族同志のつながり、地域の資源、情報の収集や交換を大切にする事
3.教育プログラム:カリキュラム内容
個別教育計画(IEP)の作成及び実践
1)学校卒業後、将来どう生きていくのかという長期的な視点を持つこと。
役に立つ、実用性のある技能を教えていくこと
2)幼児期において大切だと思われること
・生活のリズムを作る
・環境の意味を理解できるように援助する
・コミュニケーションを育てていく
・好きなこと、得意なことを見つけていく
・自立的に行動できるように援助する
・失敗なき学習を経験していくこと
・適切にできることを増やしていく
すべての療育において広範で基礎的な技能を教えていく。学習態勢の形成。
3)カリキュラム領域:TEACCHプログラムを参考
・自立技能(身辺自立、基本的生活習慣の確立、家事など)
・基礎的な学習(将来的には、職業技能になっていく)
・学習行動(将来的には、職業行動になっていく)
・コミュニケーション
・余暇活動(個人的な興味や趣味、人との遊び、ゲーム、運動プログラム)
・社会性・対人行動
・地域社会生活技能(上の6領域を地域の自然な場面で練習する。歩行、
病院、床屋、公共施設の利用、電車やバスに乗る、など)
4)具体的な目標の設定と教投手続きを考える
個別指導(1対1)を定期的に行う、それから生活場面で応用していく。
4.家庭や園や地域の生活で、子どもに必要な支援の方法を考えていく
構造化を考える:子どもにとってわかりやすい環境、生活を作っていく
教室内の構造化、家庭訪問の実施・家庭での支援、地域での支援
・コミュニケーションの手段や方法を考える
動作、実物、絵や写真、文字、言葉、など
・スケジュールの方法と示し方を考える
・場所の設定を工夫する
・活動の始めと終わり、そして次に何をするのかをわかりやすくする
・視覚的な指示や明瞭さ、手続きを考える
・手順の示し方は、左から右、上から下、など一定にするとわかりやすい
・わかりやすいルーチンを作り、くり返し練習をしていくとわかりやすい
・子どもがわかりやすいように様々な創意工夫をしていく
5.学齢期につなげていけるようにする。
「学校教育における教育実践」
筑波大学附属大塚養護学校 安部博志
ビデオとOHPで、以下3つの教育実践について発表します。
●実践1「一人通学ができるようにしたい」一社会参加スキルの形成一
@指導前の子どもの実態把握
A通学路周辺の環境調査
Bシミュレーション訓練‥・・安全な場面の下での時間的・経済的節約
a)信号に従って横断歩道を渡る
b)4種類の行き先のバスから乗るべきバスを見分ける
c)ブザーを押して停留所で降りる
C実際湯面での指導(教師)・・・・援助のタイミングを遅らせる、援助を漸減する、褒める、修正する
D実際場面での指導(母親)・・・・適切な援助方法を伝える(過剰に援助しない)
E不適切行動への対応
例)「わざと車道に飛び出す」 命に関わる問題は罰により修正(緊急の対応)
「車道に瓶を投げ込む」 ↓
「全ての停留所でいたずらに降車ブザーを押す」 しかし、すぐに限界(罰は一時的対応)
「店のイチゴを勝手に食べてしまう」 ↓
「薬局の日めくりカレンダーを勝手にはがす」 セルフコントロール(汎用性のある対応)
”いたずらはするけど人に嘘をつけない”
(トークン・エコノミー法の活用へ)
F社会環境への介入・調整
横断歩道への足型設置
青信号点灯時間延長の依頼 具体的にどのような援助が必要かを相手にわかりやすく説明する
バス営業所への協力依頼 ”世の中そんなに捨てたもんじやない”
周辺の店舗への協力依頼
●実践2「通常学級児童とのコミュニケーシヨンを拡げたい」一関係の改善−
@指導前の実態の把握
A通常学級児童の意識調査・・‥「せめて僕たちの名前を覚えて欲しい」
「挨拶したら返事をして欲しい」
B集中指導
a)他の教職員と通常学級児童の名前を覚える〈Language Palと顔写真の利用)
b) 〃 の挨拶に応答する
c) 〃 の問いかけに応答する
C他の教職員・通常学級児童に対して対象児への関わり方のガイダンス
具体的な対応の仕方・‥・一人ずつ近付いて話しかける
対象児の反応を待ってあげる(遅延対応)
褒め方と修正の仕方 など
D対象児についてのプラス情報の提供
得意なこと、興味を持っていること
「○ちやん、なかなかやるじやない」「今度一緒にオセロをやってみよう」
Eお互いにとって楽しい(?)コミュニケーションの模索
(嫌ではない・ストレスを感じない)
機能的=“fun”ctional キーワードは「楽しみ」
F波及効果…・全校に及ぼした影響(相手の名前を呼ぼう)
「○○先生、おはようございます」一・「○○君、おはよう」
G考えたこと
スローガンでなく具体的実践でノーマライゼーションを実現したい
■実戦3「飛び出し行動をコントロールしたい」一問題行動の修正−
@アセスメント
「いつ」「どんな場面で」「どこに」飛び出すか?
どうして飛び出すのか?
MAS(Motivation Assessment scale:動機付け査定尺度)から
□注目の要求? 「ねえぼくを、みて」
□嫌悪事態からの逃避?「分からないよう」「つまんないよう」
□物や活動の要求? 「あれ欲しい」「これやって」
□自己刺激? 「快感‥・・」
問題行動は”コミュニケーション”だったんだ!
Aアプローチ
その1「環境の構造化」・…見通しのもてる環境
「いつ」「どこで」「何をやるか」「それが終わったら何をやるか」
その2「個別課題の設定」
楽しい課題の設定、課題の自己選択、ご褒美の自己選択
その3「戻ってくる行動の形成」(シャイピング法)
行きたい場所を告げる,タイマーが鳴ったら戻ってくる
↓
飛び出し行動の機能の変化・・・・「嫌悪事態からの逃避から「注目の要求」へ
B飛び出さなくなった後に何を身に付けさせるか
・機能的なコミュニケーション行動の形成
VOCA(voice Output Communication Aid)の利用
・自発的な行動レパートリーの形成
例)一人で掃除を行う
三日目
親の立場から「イギリスとの比較」
鈴木 正子
1.はじめに
小学校3年生だった息子が、自閉症と分からないままイギリスで教育を受ける
こととなった。そのときどのようなことが起ったか、経験からたどってみたい。
イギリスでは、アセスメント・診断を経て、自閉症専門の教育、付随するサービ
スを受けた。
帰国して6年が過ぎ、現在息子は高校1年生。親として、日本のシステムや環
境の範囲内で必要なサポートを受けるためになんとか努力してきた。それでも日
本とイギリスの差は歴然としていた。イギリスヘはこの間数回訪問し、また英国
自閉症協会の人たちの訪日につきあう機会もあり、イギリスの自閉症の人たちを
サポートするシステムがよりはっきりと見えてきた。 同時に、両国の親との深い
交流も続いている。それらを通して、私なりに感じていることをお伝えしたい。
2.長男大知のプロフィール
現在、都立高校1年生.中学1年生の弟。
自閉症の「3つ組の障害」による困難
3.イギリスでの経験
@学校が決まるまで
(経験)
学校が決まらなかった
診断を受けるまで
(システム)
地方自治体と学校の取り組み。スペシャルニーズを見つけるシステム。レベル3から外部の専門家が介入
どこに相談しても同じところにつながる
A 診断
(経験)
診断の内容、いろいろな専門家が1日かける。精神科医、臨床心理のドクターが
中心となり、センターの教師、OT、PTも加わる
(システム)
保護者、学校、主治医などの情報
なぜ静断を受けるか
「ステートメント」障害に応じて教育を保証する公的な書類につながる
B 自閉症の人へのサービス
(経験)
−字校
自閉症の専門ユニット
ナショナルカリキュラムを実用的な「勉強」に応用する。
普通学校に一部編入
−教育と福祉が密接に協力
ユースクラブ(地域での余暇活動の援助、学期中は学校の活動の一環として、
子どものことをよく知っている、夏休み5日間の日帰りキャンプ)
レスバイトケア(親の休息・移項期の準備も。「ティー」の訪問から徐々に体
験入居、、生活訓練棟併設のところ有)
スヌーズレン(大規模な「感覚の部屋」)
C 親との交流を通して
一親の会の活動
地域の会、ストレスマネジメント
自閉症専門のコーディネーター
権利の乱用? アートセラピストの「援助」
−ある親の思い
ポール(22才)、カレッジからグループホームヘ。一人暮らしを希望。
−垣間みた施設
貿の高さ
_NAS(英国自閉症協会)の力
認証
スタンダードが高い
4.日本での経験
−イギリスの専門家たちが集まり、息子の日本への撲助に役立つように作成し
たアセスメントは無視された。
一診断されても具体的な援助に結びつかない
−援助が継続しない
現在、学校には、いじめ防止、不安への対処などの配慮をお願いしている。子
どもは自分で障害を認識.趣味の活動などを通して本人のネットワークを広げる
ようにしている。細々とした工夫であり、限界がある。
5.おわりに
親の思いや、親のもつ能力は、イギリスも日本も変わらない。親ができること
には限界があるから 援助を求めている。イギリスにはその援助がある。診断シ
ステムがあり子どもから大人まで一貫性のある、柔軟で豊かな個別の援助があ
る。援助が二重三重に張り巡らされているという強い印象を受けた
以上
「家族支援」(ファミリー・サポート) 98.12.05
東京都立大学人文学部 久保 紘章
1.はじめに
(1)報告者の立場
(2)自閉症研究での家族(親)の位置づけ(視点の変遷)
(a)精神病理としての親−レオ・カナー,アイゼンバーグ
@両親の学歴 A父親の職業 B家系での精神病の発病率
C両親の性格 D両親の対人関係
(b)共同治療者として親――ラター.ウイング,ショプラーら
(c)生活者としての親
2.家族(親)のニーズと課題
(1)自閉症児者をもつ家族のライフサイクルから見たニーズ〔資料参照〕
−ある県での約20年の追跡調査から−
(a)同一の親に対する調査
@第1回〔1974年〕本児の満年齢6.6歳・母親の満年齢33.3歳
A第2回〔1983年〕 16.5歳 41.5歳
B第3回〔1992年〕 24.7歳 51.3歳
(b)所査の内容と結果〔資料参照〕
@生活実態調査(本児の状況・母親の状況と意識)
A生活時間調査(自覚症状調査を含む)
B92年の時点から過去を振り返って
(c)調査の結果
(2)親によって語られたニーズ(ライフ・ヒストリーに見るニーズ)〔資料参照〕
(a)何が語られたか
(b)逐話記録の一部から
(3)「家族の抱えるニーズと課題」の整理
(a)ライフサイクル(ライフコース)と危機介入〔資料参照〕
(b)自閉症児をもつ家族の場合
@障害の認知 A診断と「医者めぐり」B入園・入学
C思春期と学齢後 D成人期 E親の高齢化(親亡きあと)
3.家族サポート
(1)家族サポートへの視点
(a)親は専門職に何を望んでいるか:望まれる専門像
(b)親と専門職との関わりのあり方:パートナーシップ(ミットラー)
@親と教師とは、基本的には対等であることを認めて、互いに尊敬しあ
うことA情報と技術を分かちあうことB互いの感情を分かちあうこと
C意志決定のプロセスを共有することDそれぞれの家族の個性と障害児
の固有性を認めること
*最近ミットラーは教師中心から「利用者(親)中心」の方向を打ち出し
ている。
(c)専門職のできること、できないこと
(2)家族のニーズへのサポート
(a)家族(親)への直接的なサポート
@身体的な問題:レスパイト
A心理的な問題:ストレス・「悩み」への配慮
B経済的な問題:社会資源(制度など)の活用
C「生きること」を支える
D親以外の家族へのサポート(きょうだい児)
*家族への援助システムは皆無の状態
(b)親への間接的なサポート
@子どもの抱える具体的な問題(行動の問題)
A入れ物の問題(学校・施設・就労など)
B将来の問題
Cさまざまな情報など
(c)親の会とインフォーマルなサポートなど
@セルフヘルプ・グループとしての親の会の役割
*全国・地方・同じ立場の当事者に出会うこと
Aインフォーマルなサポート:親類,友人・知人など
4.まとめ
(a)
(b)
(c)
余暇支援 筑波大学
余暇活動のとらえ方 後藤邦夫
1)従来の余暇活動に対する観念
・怠け者の行う活動
・良く働いた人達へのごはうび
2)最近の余暇活動に対する観念
・生活に潤いを与えるなくてはならない活動
近年の福祉の動向
・救済から福祉へ
・集団から個別化へ
・受動から自己決定へ
・受動から能動へ
・隔離から社会へ
・差別から平等へ
1)ノーマリゼーション
・生活の質を高め地域で当り前に暮らす
その具体的なあらわれとしてウオルヘンスペルガーは
・生活の場の保障
・教育の場の保障
・労働の場の保障
・余暇と性の場の保障
を提唱し、ニルジェは
・一日の生活のリズムの普通の体験
・一週間の生活のリズムの普通の体験
・一年間の生活のリズムの普通の体験
・一生を通しての普通の生活体験
・あたりまえの尊敬
・あたりまえの男と女の世界
・普通の経済水準
・普通の生活の環境 が必要と云っている。
2)生活の質を高めるための余暇活動
豊かな生活を営むために、有意義な余暇活動は必須条件であるという認識が大切
世界の余暇活動支擾状況
イギリス ゲートウェイクラブ(1966年設立)
メンキャップ傘下にあるスポーツークラブ。イギリスはクラブ中心のスポーツ活動であるので、そこに
入ることを許されなかった知的発達障書児・者の保護者たちが中心となって設立されたスポーツクラブ。
現在イングランド、北アイルランド、ウェールズに700の支部を持ち活動しており、知的発達障害児を持
つ人々にレジャーの機会を提供することによって彼等の個々の発達を促し、彼等が自立し、社会への統
合を図ることを目的としている。
プログラムの中で最も多く実施されているもののトップ10は、ダンス、美術、音楽、ボクシング、
水泳、フットポール、ハイキング、ドラマ、ゲーム、手工芸で、フットボール全国大会、水泳大会、全
国ウォーターフロントスポーツ大会、全国10ピンポウリング大会等を主催している。スボーソだけでな
く以下のような幅広い活動も展開している。
文化・・・焼もの、手工芸、展覧会、美術館、縫もの、ロックコンサート
教養・・・読み著さ、ワープロ、パソコン、料理教室、図書館
健康・・・フィットネス、エアロピックスダンス、ジャズダンス、ヨガ
趣味・・・ダーツ、ペットの世話、ドミノ、ディスコ、パブ、旅行
社会的活動・・・慈善資金集め、子守
スペイン アンデ(1975年設立)
アンデはスペインの知的障害を持つ人達にサービスを提供する協会でスポーツプログラムやその他の手
段で彼等の社会参加促進を目標とした団体である。この目的を達成させるため、
・スポーツ、文化活動など様々な余暇や自由時間のプログラムを計画し実行する。
・知的障害者の様々な問題を研究したり、研究結果の報告をする。
・財政上の問題に対し会員に援助と情報の提供をする。
・若年層や高齢者の持つ、労働、文化、社会保障制度、雇用等の問題に対して法律で認められた権利を
確保する。
と云った活動を行っている。
具体的な余暇に閑する活動は、年間を通じた様々なスポーツスクールや、シーズン性の高い活動のヨッ
トやスキー等のようななスポーツステージ、セミナーや講習会等のスポーツ振興活動、そしてスポーツ大
会の開催等を行っている。その他に文化的な活動として、特殊教育センターの運営、学校クラブの助成、
陶芸、絵画、小説や詩の創作、舞踊、写真等の競技会も行っている。
アメリカ スペシャルオリンピックス(1968年)
ケネディー財団よって設立された、知的発達障害者のスポーツ振興団体。1960年代はまだ、知的発達
障害者の人権が十分保証されておらず、また、彼等は学校における体育の授業も十分に受けられないと
いう環境にあった。そこでスペシャルオリンピックスは、彼等にスポーツの機会とコーチ、ボランティ
アを提供することによってスポーツの振興をはかるべく活動を展開した。現在世界150の国でスポーツ
プログラムが展開されている。
日本の現状
日本ではスペシャルオリンピックスの日本支部とか、全日本手をつなぐ育成会とかがスポーツ推進活動
に手を染めた段階で、余暇活動推進プログラムが不十分である。今まで、学校では、就労教育に力を入
れてきたが、就労を継続していくための必須条件である余暇についてははとんど教育が展開されてこな
かった。
自閉症児・者と余暇活動
白閉症のある人には余暇活動は推進しにくい。しかし佐々木正美先生はその著書で、自閉症青年期・成
人期の余後調査で、家族と共に家庭と地域社会を生活基盤にして安定して生活している人達の共通点とし
て
@家庭内で、家事などの投割を習慣的に分担して実践している
A自分一人でも、打ち込んで過ごすことのできる余暇活動を身につけている
の2点をあげて、自閉症のある人達にとっての余暇活動の重要性を述べている。
余暇活動の実践
彼等の特性
@ 新しい活動に対して挑戦をしにくい
A 習熟するまでは楽しまない
B 定型的な活動を安心して行う
C 活動を発展させづらい
これらに配慮して
幼稚園・小学校年齢−−→家庭内で楽しめる活動や近所の公園での活動
中学・高等学校年齢一一→徐々に社会との接点を持たせた活動
といったことを考えるとよい。
中学・高等学校年齢になったら、社会資源を如何に利用するかといった視点で余暇活動を考え、その準
備をする。
@ コミュニティーセンターの利用
地域での文化的な活動の中から選択
A 地域の社会福祉協議会他の社会教育機関等の利用
それらの主催する青年教室、スポーツ教室等の参加
B ボウリング場の利用
ボウリングは、方法さえ覚えれば世界中で楽しめる活動。マナー、ルールを覚えれば、定型的な活
動(10本のピンを倒す)であり、比較的理解しやすい。
C 特別な技縮のいらない活動を
ハイキングなどのように、歩くことができれば誰でも参加できる活動から習慣化することが、余暇
活動の導入としては入りやすい。
基本的には身体運動を伴う活動を推奨したい。成人後、身体を動かすことを厭わないようにするため
(身体を動かすことは生活習慣病予防につながる)と、人との交流が期待できるからである。
余暇活動のための配慮事項
1)場合によっては多少のリスクも生ずることを考えて、活動の選択が必要。
調理では火を使わない。できるだけ電気で処理をする。習熟すれば一人で火を使うことが考えられる
からである。
2)新しい場所は不安
新しい場所に対する不安感が強いので、そこで新しい活動をすることに抵抗を示す人も多い。新しい
場所では納得いくまで探索をさせることも必要。
3)何事も根気強く指導
新しい活動は拒否をする事も多いので、一見嫌いな活動と受け止められるが、単に慣れていないので
拒否をする場合もある。指導を繰り返すうちに習熟し、好きになる場合も多い。また不器用な人、自
分の身体のコントロールが不十分な人もいるので、指導には根気が必要。
4)活動を推進するための組織の構築
親がいつも余暇の推進投になるのではなく、地域で如何に組織できるかが課題。
基調講演 「自閉症への福祉援助」
日本自閉症協会副会長・白梅学園短期大学学長 石井哲夫
1,私の自閉症観
・認知機能障害から、人格形成障害までの道程‥・情動的な障害
・現象的障害としての人間関係障害・・・自我論
・生活障害からくる心理的外傷体験と現実逃避
2,受容的交流理論の開発
・援助仮説の構築
・絵援助活動実践
・援助者としての自己覚知
・援助組織論
3,福祉政策における自閉症の問題
・障害分類上の問題
・ノーマライゼーションからの問題提起
・学校や通所更生の障害としての自閉症
・生活対応のわからない強度行動障害と高機能自閉症
4,社会福祉施設における福祉援助の展開
・施設内生活の整備
・選択的作業からアトリエ・アウトスまで
・多様な社会活動の展開
障害児福祉の実際(社会的機関による受容と交流)
1,障害児福祉の概況
障害児への福祉援助の仕組みを考える場合、障害児にとって、まず第一に適切な早期発
見早期療育の機会に出会えるかどうかと言うことであろう。これは家庭のみで生活してき
た障害児が経験する社会生活の第一段階となる。その後、障害児たちにも社会的な集団生
活の場にはいるようになる。つまり、保育所・幼稚園・学校という社会生活の進展に伴い、
異なった生活状況に出会うことになる。
ここで、わが国の障害児への教育・福祉問題の具体的な状況について検討したい。
前述のように、障害児が早期に発見されてその障害に応じた早期からの適切な療育を受
けられることが必要と考えている。わが国の子どもたちは、医療的に早期からの関与がな
されている。制度としては、生後6カ月健診をはじめとした定期健診制度があるので、そ
こで大半の障害児が発見されてくる。しかしながら、療育に関しては、療育の考え方が行
政において、確立されていないので、市町村における障害児の適所指導事業が行われてい
るほか、通所の種別施設が制度化されている。このような専門的な機関ももっぱら親の判
断に基づく選択的な療育となっているので、必ずしも子どもの発達援助が理論的に考えら
れたニ一ズに対応した形になっていない。親たちの中には、わが子に早期から集団生活へ
の参加を希望するので、障害児保育制度が設けられている。これは、前出の障害児通園事
業や、幼稚園の障害児教育事業と関連して、幼児期の療育システムを形成している。
障害児保育が制度化されてから10年余りたっているが、この間、担当保母は勿論の事、
障害児を受け入れてきた保育所全体にかなりな負担がかかってきているが、障害児への個
別的な理解と援助に関しての実績を上げてきている。 障害児教育においては、幼稚園の障
害児教育が親の意志によって受けられるが、義務教育としての障害児教育は、小学校と中
学校の入学時に就学判定委員会においてその適当する教育機関を選択することになってい
る。この選択の中心は親になるが、教育関係者をはじめとして学識経験者の参加が得られ
ることになっている。障害児のための教育機関は、養護学校と特殊教育のための学級がも
うけられている。そのほかに言語指導などの促進教育的な機関も設けられている。
障害児福祉における処遇は、障害児教育をも含めて障害児教育と称するが、療育を生涯
にわたって系統的に考えていく必要がある。従来から障害児教育が一般教育との関連で考
えられてきたように障害児療育も一般の福祉制度のなかで成立してきた保育所保育のみと
の関連で考えられてきている。前述したように療育システムとして他の療育機関、保育所、
幼稚園や小学枚などという関連機関との関係を考える視点が必要である。また障害児への
教育や療育的な実践が進むようになってから、障害児の逐年的な追跡的観察が行われるよ
うになってきているので、幼少期における保育・教育観や保育・教育目標が必ずしも達成
されるものでないことが分かったり、逆に青年期の状態像から逆に幼少期における保育・
教育の強調点や方法のあり様が考えられるようになってきている。
2,障害児福祉の基本としての治療教育
私が今まで取り組んできた障害児福祉実践を回顧すると、これから社会性参加による何
らかの問題を発生しやすい障害児や、社会生活に適応しにくい状況に置かれている障害者
に対して、教育的な関わりの基盤を作ると言うことであった。これが障害を持つ人への普
遍出来る需要と交流の実践であり、基本的には、障害児福祉は障害児への治療教育から始
まると言ってよい。そこでまず治療教育について考えてみよう
@治療教育の基本を考える
治療教育は、その歴史を振り返ってみると、知的障害児の処遇から始まった。
学問的には、医療における教育の適用であったが、そこにアベロンの野生児の研究者で
あるイタールを始めとした知的障害教育障が導入されてきている。
知的障害教育は明らかに個別教育指導実践で、感覚運動などの生理心理的な発達研究が
含まれていた。そこには弱者に対するいたわりと無理解な社会に対しての焦燥感が同居し
ていた。なぜ焦燥感があったのであろうか。それは、知的障害児に対して、当時の社会か
らの強力な適応要請とその要請に応えられないものへの排除があり、さらに排除に対して
は、逆に有識者や家族からの同情としての焦燥感が見られたのである。
社会からの排除によって生ずる同情者の反応として、社会に対する批判という働きが極
めて重要であり、そこに人権尊重の起点が出来るものである。しかし当時の社会は、障害
児への排除の思想と社会防衛の思想が強く最近までこれが障害児教育における大きな根拠
となっていたのである.。治療教育は、この矛盾の谷間から生じてきているのである。そし
て今日では、完全といってよいくらいに、社会適応の強制的な実施を避けようとしてきて
いるのである。
すなわち、治療教育において基本的に警戒しなければならないことは、一般教育にあり
がちな強者から弱者に対する不遠慮な姿勢である。強者は、弱者に対して、強制、強圧を
加え易い。強者は弱者を笑いものにし、これを蔑み自分のなぐさみの種にしやすい。
表面的には教育、指導という形をとり、理にかなったような項目な理屈をあげて障害児
に強要することがあるがこれは、虐待やいじめにほかならない。従って、熱心さの余りな
どと言って、反復訓練を繰り返すことは、虐待の上塗りを行うことであって、これを決し
て許してはならない。
つまり泊療教育の基本には、このような大きな矛盾がありこれを学ぶには、実践的にこ
れを克服していくことから始めなければならないのである。
たとえばこの矛盾の第一段階は、知的障害児に対する知的能力的な教育の放棄であり、
「この子達は、頭が悪いから頭を使わないで体を使う教育を強化すべきである」等と言う
考えから、肉体労働の方にもっぱら教育訓練の方向が集中され、いわゆる奴隷的徒弟的な
教育が始められてくるのである。このような肉体労働と直結されている教育訓練は、その
社会的な貧困と結びついて社会の合理化の下に合意されていた。
近年、矛盾の第二段階として、「A・D・L・」とか「自立」というかつての社会福祉
の価値観がある′。最近の社会福祉援助という観点から強調されるようになってきた「Q・
0.L.」や「自己決定」とか「自己実現」などという価値観に関して、治療教育を学び直
すとしたら、社会福祉援助が対人援助の上に成り立っていると言う原点にたって障害児と
の関係づくりということに焦点を当てて学びなおしていきたいと思っている。
A教育関係におけるインプットの基盤づくり
基本的には、障害児の障害に対しての正しい理解が必要なことはもちろんで、そのため
に必要な教育環境を考えて整備していかなければならないはずであろう。本人たちの立場
になって考えてみれば、毎日が恐柿や不安にさいなまれている。その不安とか恐怖という
ような感覚的な捉え方が教育側に成り立たないことが問題なのである。そして、現代社会
においては、何よりも優先すべき事として、このような非教育的な状況に放置している子
どもたちに対して、適切な教育環境を整備してやることであろう。それは、教育的な人間
関係の形成であり、教育的なインプット方法を獲得していくことであると考えているので
ある。
教育的なインプット方法は、次の手順によって行われるものであろう。
障害児の療育に関しては、必要とわかっても受容という考えを実践的に確立していくこ
とが困難である.。それは、治療者の介入についての正確な理解が得られにくいからであろ
う。治療者が介入し、障害児の対物関係を対人関係に転換する交流の湯を積極的に設ける
治療法を開発してきた。そこには、受容を行う際、人が人と交流することができる素地を
必要とする、つまりプレイセラピーで用いられる「遊び」の場において、治療者は、ここ
で障害児の自己を表出させ、受容し、彼が防衛を解いても、治療者が大枠で彼を守り得る
ことを行為をもって伝え、障害児のインプット基盤の開発を行うことになるのである。
治療者は、障害児の自我形成の「人的枠組み」となって、徐々に彼等の既成準拠枠を変え
ていくのである。すると当然、そこに不安や恐怖が障害児に訪れることになる。しかし、
治療者はここで怯まず、それを一生懸命になだめられ自己を確認する信頼関係を獲得して
いくことになる。
次の段階では、関わりとしての課題が求められるわけである。
具体的には、彼等が日常何気なく接するところの物であっても丹念に見せ、教えることで
ある。これは、慣れ親しんだ場の活用でかなり積極的に行えることと言えよう。今行って
きている意識の集中と持続という高度な自我の活動を求める課題操作課題がそれである。
意欲を込めて行為を為すという操作性が求められた課題状況に、自己の調節をもって対処
を求める。
以上を整理してみると次のようになる.
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
受容的交流療法における受容的交流段階と課題的交流段階
小 段 階 大段階
1:受容し、発達障害の防衛を角牢く(安全を保障する)
┐
↓ │ 受
2:共に遊び、自発的に情緒を現す(遊びの創造・展開)
├ 容
↓ │
的
3:関わりによるインプット基盤(認知化となだめの活用
┘
↓ 課
4:小課題・日常課題を設定し、対応を求める(認知に迫り、 ┐
題
↓互いの情緒・自我を明らかにする)
├ 的
5:多様に操作課題を設定し、対応を求める(自己調節を求める┘
段
階
-------------------------------------------------------------------------
最終日
「施設における援助」
あさけ学園 奥野宏二
1.自閉症にかかわる施設援助の状況
1)自閉症児施設
1980年児童福祉施設最低基準の一部改正により、「自閉性を主たる症
状とする児童を入所させる精神薄弱児施設」として発足。
@第一種自閉症児施設(医療型)
*病院に収容することを要する…児童を入所させる
A第二種自閉症児施設(福祉型)
*病院に収容することを要しない…児童を入所させる
自閉症児施設の現況(平成5年10月現在)
--------------------------------------------------------------------------
施設名 所在地 定員数 現員数 備 考
梅ケ丘病院 東京都世田谷区 40 1
医 あすなろ学園 三重県津市 80 61
療 松心園 大阪府枚方市 42 18
型 ともえ学園 広鳥県三次市 40 40 平成8年5月改廃
静療院 北海道札幌市 32 24
--------------------------------------------------------------------------
福 樽前希望学園 北海道苫小牧市 - - 平成3年4月改廃
祉 第2おしま学園 北海道上磯郡上磯町 44 44
型 袖ケ浦のびろ学園 千葉県袖ヶ浦市 60 55
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2)知的障害施設
全国精神薄弱施設実態調査(H8年度)
10.724名/126,713(8.5%) *H5年度 8,353名(7.4%)
全国精神薄弱児通園施設実態調査(H8年度)
1,120名/6.828(16.4%) *H5年度 855名(14.2%)
3)自閉症者施設
自閉症者施設実態調査(H9年度)
全国自閉症者施設協議会会員施設 36施設、定員総数1.720名(H9.4.1現在)……自閉症児者の現員比 76.5%
2.自閉症者施設における援助の実際
1)行動障害の改善
行動化の抑制/混乱や思いこみ、不安の軽減/信頼感、自己コントロールの努力
*不適応行動を障害だけでなく、社会的人格の育成の視点から捉える
2)生活スキル習得の援助
励ましや評価などの関係に支えられた努力/構造化・ジグなどの活用
*身辺処理や家事労働などを他者との関係の中で再学習する
3)社会的スキル習得の援助
具体的な社会的場面におけるプログラムと援助/年齢や文化適合性の配慮
4)作業(労働)スキル習得の援助
集中や持続の力/生活と連動した労働意欲の育成
3.入所施設機能の整理と地域援助の拠点
1)入所施設機能の整理
入所施設を完結型の唯一の選択肢でなく、地域ケアの拠点として活用資源
の一つに位置づけ直すことが必要。
@生活補完機能
A入所療育機能
B地域生活援助機能
2)強度行動障害特別処遇事業の取り組みから
*「・‥生活環境に対する極めて特異な不適応行動を頻回に示し、日常の生活に困難を生じている、いわゆる強度行動障害を示す者について、
精神薄弱者更生施設等に特別処遇体制を整え、適切な指導・訓練を行うことにより、行動障害の軽減を図り‥・」(H5年)
*強度行動障害特別処遇加算費(H10.7.31)への転換
@有期限、有目的の意義 …関係者への縛りと本人へのインフオームドコンセント
A混乱の整理と他者・自己信頼の回復/自己統制力やスキルの習得
B入所時から退所プログラム(家庭や地域との関係修復)の作成と実施
*学校や作業所の個別プログラム作成援助、家族との関係修復プログラム
C関係者の定期的な合同カンフアレンスの実施
Dアフターケアシステムの形成とフォローアップ会議
3)障害児(者)地域療育等支援事業(コーディネーター事業)の取り組みから
* H2年 心身障害児(者)地域療育拠点施設事業
*「・‥在宅障害児(者)に対する療育・相談等の体制を充実し、地域に
おける障害児(者)の福祉の向上をはかる・‥」(H8年)
A.療育等支援施設事業
ア)在宅支援訪問療育等指導事業 イ)在宅支積外来療育等指導事業
ウ)地域生活支緩事業 エ)施設支援一般指導事業
B.療育拠点施設事業
ア)施設支援専門指導事業 イ)在宅支援専門療育指導事業
@登録/情報の整理
A援助プログラムの作成
B現実的に役に立つ援助の展開
*家庭や学校、作業所など援助の必要な場面に出向いた情報収集と援助
*ショートステイなどの計画的活用
*援助機関の利用援助や調整とシステム形成‥・調整会議
*援助機関の育成と資源開発
4)生活の保障(住む機能)と精神的自立の援助
@住む形態の多様化(選択肢の拡大)と柔軟性
A自分の人生を主体約に引き安けていけるための援助
4.自閉症総合援助センターヘ向けて
1)生涯にわたる責任援助機関
2)施設の生活指導技術を生活臨床、社会臨床などの専門援助技術へ転換
3)ニードに応じた多様な援助が可能な地域システム
自閉症者の就労援助
明星大学 梅永雄二
1.青年期自閉症者の進路状況
2.労働行政における自閉症者への対応
(1)知的障害者と自閉症者
(2)知的障害者の産業別雇用状況
(3)就労援助制度
3.自閉症者の就労上の問題点
(1)作業能力
(2)対人行動
(3)環境要因
(4)その他
4.様々な就労援助モデル
(1)障害者職業センター
(2)雇用支援センター
(3)福祉工場
(4)企業内作業班
(5)援助付き雇用(Supported Employment)
5.自閉症者の職業的自立のために-事業所調査の結果から
認知と情緒の発達と社会適応
東京学芸大学
太田 昌孝
自閉症は通常3歳以前におこり、相互的な社会関係の障害、コミュニケーションの
パターンの質的障害、及び制限された、常同的で反復的な興味や活動が多いことの3
つ行動的症状により特徴づけられる発達障害である。自閉症児の多彩で当惑する行動
と情緒の状態の背後には、認知の発達段階と特異的な不均衡さが存在している。認知
の観点から発達的特性を理解することは、彼らの行動と気持ちを適切に理解し、個別
のニードに答えたり、発達水準に合った治療や教育を初めとする個別的働きかけを行
う上で不可欠なである。ここでは、第1に、子どもの精神発達における感情と認知の
関係についてのべる。第2に、自閉症の心を理解する支点としてのStage分けについて
述べる。第3にはStage分けの観点から、自閉症における子どもから青年に至るまで
の情緒発達と適応について概略する。第4に、自閉症への働きかけを批判的に検討し、
認知発達治療の原理と意義について述べる。
T.認知と情緒
昔より、精神機能は知・情・意に分けられるとされてきた。情緒とは、この“情”
に相当する精神機能である。この認知機能と情意機能は、その個体の中で不可分の統
一した精神機能として働いている。このこつの機能を分けて考えるのは、精神現象を
説明するための便宜的手段である。認知機能と感情機能とは並行的な関係が存在して
おり、認知の発達と同様に感情の発達においても不連続性が存在している。
発達障害である自閉症では、多くの場合、認知発達の遅れや歪みがあり、コミュニ
ヶーションの障害があり、自己評価が適切でないことなどのために、感情と認知を分
離して把握することにいっそうの困難がある。そこで自閉症の情緒の領域として、社
会的な諸関係で現れる対人関係と総称される情緒的あるいは社会的な行動の障害およ
び人の表情、ジェスチャー、心の理解と表出の障害などを含めて考えることにする。
U.自閉症の心を理解する視点としてのStage段階
1.認知障害の問題の所在とその意義
@課題の拒否は自閉のためではなく、課題ができないためである。適切な課題を
選択すると非常に良く課題にのる。A知能は、正常から最重度遅滞まで分布し、過
半数以上が中度遅滞以下に属する。B経過により自閉症状が減弱するにもかかわら
ず、知能は、短期、長期にも安定している。CWISCなどのプロフィルは極めて特徴
的である。DIQは、将来の適応の良さと相当の関係があるが、部分的に高い能力は
あまり関係しない。
2.子どもの認知発達とその節目
(1)無シンボル期における「手段と目的の分化の節目」
(2)シンボル期への移行への「名前の発見の節目」
(3)概念的思考の始まりである「概念の形成の節目」
3.シンボル表象機能・認知機能のStage段階分け
Stage Iシンボル機能が認められない段階
StageT-1 手段と目的の分化ができていない段階
StageT-2 手段と目的の分化の芽生えの段階
StageT-3 手段と目的がはっきりと認められる段階
Stage U シンボル機能の芽生えの段階
stageV−1シンボル機能がはっきりと認められる段階
StageV−2 概念形成の芽生えの段階
StageW 基本的な関係の概念が形成された段階
4.Stage分けの操作基準
V.Stage分けから見た情緒と行動の発達および適応
情緒的接触やコミュニケーションの質は認知発達の水準と関連し、認知発達が高い
ほどこれらの能力が高いことが認められる。
1.幼児期から思春期
自閉症児が6歳をすぎるとその症状が大きく変化することがあり、この時期では、
対人情緒の状態に比べて、認知機能の不均衡さが目立ってくる。この情緒的な改善の
傾向は、認知的に高い自閉症において早期よりはっきりとみられる。さらには、精神
遅滞、多動症候群、特異な学習障害の状態像などに変化することがある。
2.思春期青年期の対人関係
年齢とともに、認知の程度にかかわりなく、社会的孤立の程度が弱まって行く。 思
春期青年期の自閉症者の相互的な対人関係の障害と特徴を良く表すものに、Wingの3
分類がある。それによると、孤立群(Aloof Group)、受動群(passive
Group)、積極・
奇妙群(Active-But-Odd Group)、割合は少ないが適切な相互交流群と尊大群があるこ
とを付け加えている。年齢が高くなるにつれ、孤立群が少なくなり、受動群、積極・
奇妙群が多くなり、Stage段階や知能や適応行動の水準は、孤立群、受動群、積極・
奇妙群の順で高くなる。
W.認知発達治療の原理と意義
1.妥当な治療教育の現在的要件
(1)発達的観点が必要である
→自閉症の特徴的症状として反響言語があげられるが、奇妙であったとしても反
響言語が早い時期に現れることは言葉の獲得につながる可能性のある現象であ
る。
(2)自由な、受容的な方法では学習し難い
→・積極的な働きかけ・適切な教材の系統化・程良い物理的環境の構造化
(3)異常行動の減弱は主要な目的ではなく、
→ 必ず、適応行動の獲得のプログラムが用意されること
(4)行動の変容法
@普通の子どもで適応できる範囲から、逸脱しないこと、A非嫌悪的接近の優位性
(5)働きかけの構成 → 3つの次元
@自閉症の表象機能(認知と情意)の発達の促進とその障害の克服と代償であり、
脳機能障害の克服と代償も射程に入れている A個々の適応の領域についての発達
を促すこと B行動の異常を減弱させたり、予防すること
2.適切な診断と評価の軸
3.治療教育におけるインフオームドコンセントの考慮
親(可能な限り本人も)に対して説明と了承あるいは同意
4.Stage分けによる認知発達治療の原理
我々が開発した自閉症に対する認知発達治療である。自閉症児のStage段階に応じ
た3つの次元への総合的な治療教育である。その中心は認知発達を促進し、その障害
を克服する働きかけにある。同時に、情意機能の改善と発達にも働きかける。そして、
Stage段階と年齢に応じた適応行動の獲得を促し、異常行動の減弱と予防をはかる働
きかけである。Stage分けが治療教育の科学性を高めている。
5.認知発達治療の意義
@どの発達段階の子どもにも適応可能であり、シンボル表象能力を高め、思考の柔
軟性を養う A最近接領域を知ることができ、内的動機づけを高めることができるB
異常行動の減弱や予防に効果的に作用する C適応行動の獲得に柔軟性をあたえる
D発達の遅滞が重く、異常行動が激しくても、適応することができる E自閉症児の
人間としての成長過程を作り上げることに役立つだろう
6.認知発達治療を高めるために
自閉症の薬物療法と家族への働きかけの重要性
自閉症の本態と治療についての研究は、この困難な障害を乗り越えようとする方向
に着実に進んでいる。自閉症の認知と情緒の特徴に基づいた個別の働きかけは、自閉
症児の発達を促進し、適応能力を増し、行動異常を和らげたり予防したりすることに
なると確信する。それをさらに有効にするためには、医学や心理学や教育あるいは福
祉の各々の境域での積み上げと、有機的な密なる連携が必要となろう。
参考・文献
1)太田昌孝、永井洋子編著 自閉症治療の到達点 日本文化科学社,1992
2)太田昌孝、永井洋子編著 認知発達治療の実践マニュアル 日本文化科学社,1992
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