講師:(弘済学園園長)飯田雅子
期日:平成10年7月4日
会場:奈良女子大学
〔要旨〕
1.「強度行動障害」とは
私は知的障害児施設(成人施設もある)の弘済学園に勤務している。昭和62年から
2年間の研究成果をまとめて厚生省に報告し、「強度行動障害特別処遇事業」が開始さ
れた。
この「強度行動障害」という言葉は、激しい不安や興奮、混乱の中で、攻撃、自傷、多
動、固執、不眠、拒食、強迫などの行動上の問題が強く頻繁に日宮生活に出現し、現在
の養育環境では著しく処遇困難になった状態と定義される。また「強度行動障害判定基
準」で合計20点以上の状態にある人は「特別処遇事業」の対象となる。
2.子どもの障害特性理解の前提条件
人間には自己保存と自己存在確認の本能がある。子どもの養育環境の基本は「快適刺
激:不快刺激=7:3」である。また、人間の心身の働きをコントロールする脳細胞は、
生理的に胎生8か月以後は再生しない。知的障害は脳細胞の損傷に起因する。脳細胞に
は機能分担があり、知性と感性は異なる機能である。養育者は、こうした前提を踏まえ
て子どもの現状を確認しながら健やかな成長(残存能力内自立)を図ることが原則であ
る。
強度行動障害の7割は、知的障害や自閉などの特異な行動現象だけに対応して、この
養育原則を逸脱した不適切な育て方をしたことによって形成された状態像なので、その
発端となった子どもの特異な行動の意味を追求して、改めて取り組むことによって軽減
することが可能である。
3.弘済学園での取り組み(ビデオ)
F君が入園当初(昭和63年)、「強度行動障害判定基準」で45点で家庭生活や学園の
仲間との集団生活は困難な状態にあったが、2年間の取り組みで集同生活が可能な状態
に改善された。環在は、「判定基準」で13点になっている。
4.強度行動障害の行動改善を図る
(1)子どもの障害をとらえる
知的障害や自閉などの特性を承知すること、その特性の強さ・程度・度合いを把握す
ることが基本である。
(2)子どもの気持ちをとらえる
◇出会い・関わりが本人にとって快の状況になるようにする。
◇障害特性を理解して受けとめ、本人が受けとめられている実感をもつ(受容)
◇本人の力に応じた許容範囲を決める。
- 過欲求によるコンプレックス・フラストレーション・ストレスが鬱積、過小評価にに
よる依存過多傾向に気をつける。
◇快の状況が必要である。
(3)子どもの行動の理解(かかわりの実際)
◇子どもの認知レベルに合わせた対応をする。
◇子どもの運動量を調節して生理的快適さ(快食・快便・快眠)をまもる。
◇療育者が穏やかに接する。
- 発育者の関わりでコンプレックス・フラストレーション・ストレスをつのらせ過ぎ
ないように配慮する。
◇子どものレベルに応じたコミュニケーションの方法を工夫する。
◇結果的に子どもの言行が一致しているかどうかに気をつける。
(4)行動障害の表れ方
(5)対応の整理
◇子どもの障害特性を把握し、子どもの行動を肯定的に好意的に分析して解釈する。
◇生理的快適状態をつくりだす、生理的リズムを整えて環境をつくる。
- 構造化(場面・スケジュール・人)の手法を活用して、子どもが関わりやすい状況を
つくる。
◇コミュニケーションをとる。
◇安心できる人との関係をつくる。
◇必要に応じて医務からのアプロ←チを図る。
※このまとめは大変参考になりますので、奈良県重症心身障害児(者)を守る会の機関誌
「創年」より、発行責任者の品川様に了解を頂きましたので、一部を転載します。
強度行動障害問題を考える会
研 修 会 1998年2月7日
園長 飯田雅子
強度行動障害の行動改善を図る。
1.子供の障害をとらえる
特性の承知.┐
├現実の確認をして受けめること。
度合いの把捉┘
2.子供の気持ちをとらえる
出会い・係わりが鍵をにぎる。
受容・過小評価はどうだったか。
快の状況が必要です。
3.子供の行動の理解―かかわりの実際から―
子供の認知レベルに合わせていますか。
子供の生理的快適さは護られていますか。
養育者(周りの者)は穏やかに接していますか。
養育者の係わりで子供はコンプレックスやフラストトションやストレスをも
っていませんか。
子供の欲求・興味・関心はどんなところにありますか、とらえていますか。
コミュニケーションの方法はどうなっていますか。通じていますか。
子供は言行が一致していますか。
4.行動障害の表れ方。
行動・度合い―――悪循環
5.対応の整理
(1)子供の持つ障害の特性を把握し、子供のとる行動を肯定的に好意的に分
析して解釈する。
(2)生理的快適状態をつくりだす、生理的リズムを整て環境をつくる。
(3)構造化の手法を活用して、子供がわかりやすい状況をつくる。
(4)コミュニケーションをとる。
(5)安心できる人との関係をつくる。
(6)医療からのアプローチを
強度行動障害の行動改善に向けての援助
弘済学園 飯田 雅子
1、定義
「激しい不安や興奮、混乱の中で、攻撃、自傷、多動、固執、不眠、拒食、強迫など
の行動上の問題が強く頻繁に日常生活に出現し現在の養育環境では著しく処遇困難にな
った状態をさす」
自閉性障害や精神遅滞(知的障害)などが医学や教育からの概念であるのに対し、強
度行動障害は激しい行動障害がもたらす本人の荒廃や家庭の崩壊などの悲惨な状況に対
して、人権を保障する福祉の立場から定義された行政概念である。自閉性障害や精神遅
滞などの医学的障害概念に新たな概念を加えたものではない。
2、成因
強度行動障害は個々のケースが生来的に持っている資質そのものではなく、それが不
適切な育て方との相互交渉の中で形成された状態像であり、働きかけにより軽減してい
くことが可能だという前提が含まれている。
すなわちその発端には本人の生物学的な背景からもたらされる特異な行動かあり、次
にその意味を理解できない養育者の受けとめ方がある。養育者がその行動の意味を正確
に把握できない時に本人のストレスは増大し、攻撃・破壊・自傷などきまぎまな行動障
害となり、それがさらに養育者の評価と対応を受け、より複雑に拡大されて強度行動障
害となる。このメカニズムは複雑で理解がとりわけ困難であることが多く、発端のその
特異な行動の意味を追求するところから取り組むことになる。
3,対応のポイント
@ケースのもつ障害の特性を把握し、そこに立ってケースの行動を解釈する。
肯定的に、好意的に分析する。
A生理的快適状態をつくり出す環境をつくる。
生理的リズムの整え。
Bわかりやすい状況をつくる。
構造化の手法 (スケジュール、場所、人、やり方)
Cコミュニケーションをとる。
自分の考えるところを表示する。他人の意向をきく。
D安心できる関孫をつくる.
人を手がかりとして行動できるように。
E医療からのアプローチ
4,配慮きれた連携のために
@スタッフの課題に向かう考え方と感度の統一
A医療との連携
B家族との連携
強度行動障害の例
1.ひどい事象の例
肉が見えたり、耐が変形に至るような叩きをしたり、つめを1
2.強い他傷の例
噛みつき、蹴り、なぐり・髪ひき、頭突きなど、相手が怪我をしかねないような行動
など
3.激しいこだわりの例
強く指示してもどうしても服を脱ぐとか、どうしても外出を拒みとうす、何百メート
ルも離れた場面に戻り取りに行く、などの行為で止めても止め切れないもの
4.激しい物壊しの例
ガラス、家具、ドア、茶碗、椅子、眼鏡などをこわし、その結果危害が本人に
もまわりにも大きいもの、服をなんとしてでも破ってしまうなど
5.大きな睡眠の乱れの例
昼夜が逆転してしまっている、ベッドについていられず人や物に危害を加えるなど
6.食事関係のつよい障害の例
テーブルごとひっくり返す、食器ごと投げるとか、椅子に座っていられず、皆と一緒に
食事できない。便や釘・石などを食べ、体に異常をきたしたことのある異食・体に異常
をきたしたことのある拒食、特定のものしか食へず体に異常をきたした偏食など
7.排泄関係のつよい障害の例
便を手でこねたり、便を投げたり、便を壁面になすりつける。脅迫的に排尿排便行動を
繰り返すなど
8.著しい多動による障害の例
身体・生命の危険につながる飛び出しをする。目を離すといっ時も座れず走り回る。
ベランダの上など高く危険な所にのぼる
9.著しい騒がしさの障害
たえられないような大声を出す。一度泣き始めると大泣きが何時問も続く
10.パニックのもたらす結果が大変なため処遇困難な状態
一度パニックが出ると、体力的にもとてもおさめられず、つきあっていかれな
い状態を呈する
11.粗暴で相手に恐怖感を与えるために処遇困難な状態
日常生活のちょっとしたことを注意しても、爆発的な行動を呈し、かかわっている側
が恐怖を感じさせられるような状況がある
強度行動障害の判定基準
行動障害の内容 1点 3点 5点
1. ひどい自傷 週に1、2回 一日に1、2回 一日中
2. つよい他傷 月に1、2回 週に1、2回 一日に何度も
3. 激しいこだわり 週に1、2回 一日に1・2回 一日に何度も
4. 激しいものこわし 月に1、2回 週に1・2回 一日に何度も
5. 睡眠の大きな乱れ 月に1、2回 週に1・2回 ほぼ毎日
6. 食事関係の強い障害 週に1、2回 ほぼ毎日 ほぼ毎食
7. 排泄関係の強い障害 月に1、2回 週に1・2回 ほぼ毎日
8. 著しい多動 月に1、2回 週に1、2回 ほぼ毎日
9. 著しい騒がしさ ほぼ毎日 一日中 絶え間なく
10.パニックがひどく指導困難 あれば
11.粗暴で恐怖感を与え指導困難 あれば