弘済学園 指導課長 三島卓穂
1.はじめに
松頼荘の利用者は動く重症児(者)ですが、弘済学園の利用者は知的障害児または自
閉症児の方で違います。対象が違っては話は有効性を失うが、ある軽度重なり合いがあ
ると思っていることを前提に話を進めます。まず、援助ですが、福祉施設ではその援助
は、臨床的・現象的な方法により、病棟では医学的な方法によります。今回の講演は、
福祉施設での臨床的な立場から、これまでの経験を集約した中間的な報告としてお聞き
ください。
今回は、行動障害の捉え方、一般的に有効とされた援助の方法について話をさせてい
ただきます。
2.行動障害の捉え方
たとえば、ある行動が本人のいやがらせであると思われたとき、それが本人の内面か
ら捉えるとどのようなことなのかをとらえる必要がある。この人たちのような発達障害
をもつ人の行動障害は多くは自らを守る防衝的な手段であることが多いと感じています。
そのような視点で行動障害をもつ人に援助してほしいと思います。
特徴に合わせた援助をすることが大切である。たとえば、その人が知的な障害であれ
ば、わからないことが基本の障害ですから、「分かるような援助、分かりやすい援助」
が必要となる。そのために多くの手がかりを用意したり、工程を細かく分析してひとつ
ひとつのステップを低くしてあげることが必要です。では、自閉症の方にはどうでしょ
うか。自閉症の基本的な障害は、社会性障害、コミュニケーション障害、同一性保持を
含む反復常同行動であり、そのそれぞれの障害−苦手な部分を補う援助が必要です。関
連して、強迫性障害も視野に入れておく必要があると思います。自分では不合理性が分
かつていてもやらずにはいられないタイプの行動です。自閉症の方にはよくみられます。
僕たちでも、確認しなくてはいられない確認強迫もあります。三歩歩いて二歩下がるな
どの行動も変な行動とするのではなく、強迫的な視点からみていく必要があります。
このように、発達障害には特質や傾向があり、それは最も本人が苦手としていると思っ
てなるべく避けてあげる配慮がほしいのです。その他、行動障害は単一の原因から出現
すると考えるのではなく複数の要因が関与していると考えるべきです。また、安易に行
動障害の意味を決めつけないことです。これだ、と決めつけて援助を続けることは違っ
ていた場合、本人に著しい苦痛を与えることになります。
3.どうしたらよいのか−初級編
では、実際の行動障害にどのように援助をすればよいのでしょうか。ここでは、ごく
一般的な、しいて言えばつるしの服のようなオーダーではありませんが一応は良いとさ
れた方法です。これは、厚生省の心身障害研究で飯田先生のグループにいた中本先生が
まとめたものです。
それは「構造化された環境のなかで、薬物用法を活用しながら、許容的なリラックス
環境を準備し、過剰な刺激をさけて、キーパーソンを軸に楽しい雰囲気の中でコミュニ
ケーションにより情報の提供と自己選択をしやすくし、様々な障害を理解した周囲が、
次第にセルフコントロールを促す」ということです。
- 構造化された環境の整備
構造化された環境とは、あらかじめプログラムされた環境であることをさし、その場
あたりの環境を提供したり対応をしないことを意味します。たとえば、プログラムが始
めから終わりまで計画されて本人にわかりやすい安定したものであることを指します。
課題の進め方や生活の展開が一定であることも指します。とりわけ、こうした構造化さ
れた環境は「自閉症児」にとっては安心である。なぜなら特性として自閉症ではその障
害の中核に「同一性の保持」があるからである。一定した環境を作り、まずはその人た
ちが安心できる環境を整備し、安心が得られてから少しずつ変化させることが必要とな
ります。
B.安定した小集団を準備する。
誰しも小集団で生きている方が安定する。小さい方がそれぞれのことを理解しやすい。
「自閉症」の障害のひとつに「相手の気持ちが読めない」という心の理論の障害が言わ
れている。気持ちが読めない人には、その人の周囲にたくさんの人がいるよりは少人数
の方が安心感があります。個人対応についてはあまりに近くて本人がうつとうしかった
りして刺激が過多にならないよてっな配慮や、かといって全くの放任ではいけない。適
切な距離をもった関わりが大切だと思います。
C・生活リズムのある生活を準備する
人間には生活リズム、たとえば食事のリズム、睡眠のリズム、排泄のリズムなどがあ
るが、行動障害のある人の多くではそのリズムが崩れている。その崩れた生活の中では、
基本が整っていないわけであり、たとえば何かを言われたことだけで容易にパニックと
なることがあります。生活リズムを整えることは基本となります。
- 楽しいプログラムで一日を組み立てることも大切
行動障害があるとついつい、その「問題行動」ばかりに目が行く。また周囲も敬遠し
ておもしろいことがないと「行動障害」が起きる。楽しいプログラムをつくることで生
活リズムをつけるためには楽しいことを準備することである。個人によつて音楽が好き
だったり知覚過敏で嫌いだったりするのでその人にあった楽しいプログラムをつくるこ
とが必要となる。
E.医療との連携を的確にする
医療には医療の方法論がある。薬が強すぎると素人判断をして勝手に1/3や半分に
したりしてはいけない。薬をそのまま飲ませて現れてくる状態を正確に報告することが
大切である。たとえば、ビデオで状態を伝えるのも一案であると思います。
F.許容的にかかわる たとえ、その行動が好ましくないとしても、当初はその行動障
害の真の意味が周囲に正確に理解されると言うのではなく、また、たとえ、わかってい
ても本人には受けとめる余裕はありません。そこで、いきなりその行動を「〜してはい
けない」と全面禁止しないということも大切な点です。
G.過剰な刺激をさける。
このような人は情報処理が一般的に苦手であり、また刺激をコントロールしにくいた
ために、パニックを起こしやすくなる。たとえば、ざわざわしたところにいくとか、い
ろいろなことを一度に言われるとか、大きな声で指示されるなどで本人は苦しくなるこ
とが多いのです。
H.リラックスできる場が大切。
強い刺激を避け静穏な環境を準備すること。ただし、それではいつまでも薄暗い部屋
にじつといればというような印象を持たれるが、そういう意味ではなくて、たとえば、
構造化された環境はその環境にすでになじんでいるという意味では刺激は少ない場にな
つている。
だっこなどで安心感を与えるとは、安心感、精神感情の安定ということになる。
また、発語のある人では言語ゲームを楽しむのもひとつの方法である。行動障害を持
つ人は往々にして緊張していることがある。特に、「〜行くよ」「〜するよ」と言った
ような中身のある内容ではなく、「何の意味もないような話」をする言語ゲームをする
事でお互いに行為を持っているというコミュニケーションを成立させることも可能であ
り、リラックスさせることができる。
- 肉体・精神の疲労に配慮する
肉体については、適度の疲労が必要と言うことである。過労はいけない。例えば水泳
の好きなお子さんが家に帰ったとき、大好きな水泳を思う存分させていたのにその後に
極端に自傷が強くなってどうすれば良いのか悩んだ母親がいた。疲れをコントロールす
る力のないこの人たちには周囲が上手に調節する配慮をすることも大切である。また、
疲れに関しては肉体だけの疲れではいけない。適度な知的な課題をこなす中で精神の疲
れも適度にあることがないと睡眠にも関わる。
J.周囲の理解
本人が外からはうかがえない様々な刺激に緊張していることや、刺激に対してもスト
レスを持っていることを理解すべきである。どうしても一定の状況になると人を叩いて
しまう人がいる。自分でいけないとは思いつつもやってしまうという自分の特徴をつか
んでいるので人を避けてしまう。それを余計に引き戻されると人をかんでしまつたりす
る。このように外からは見えなくても、わずかな刺激に対してストレスを感じているこ
とを理解することが大切である。また、自閉症では、服がかわっただけでその感触の違
和感に不快感をもつ話がある。これも、外部からはうかがえない本人の置かれた状況で
ある。これらの可能性も、理解して関わることが求められる。
K.食事への配慮
食事は行動障害のもっとも現れやすい場のひとつである。時には、食事を投げてしま
う人も少なくない。その際に、食器を固定したりして全部食べる満足を保証することが
重要である。期待が強すぎるとストレスとなって食器を投げてしまう事もある。「食堂
→食器を投げる→食べられない→不安」となり食事ができなくなることもある。
L.キーバーソンを軸に
相性の良い人を中心にして安心できる雰囲気をつくると言うことです。ここで、キー
パーソンとは、自己を上手にコントロールしてくれる人のことをさす。この人たちでは、
やってはいけない事をどうしてもしてしまう自分への「自己不全感」があることが多く、
それを自分ではコントロールできないので上手にコントロールしてもらうと楽になる。
そのような援助する人がいると良い。
M.コミュニケーションを通じて情報提供と自己決定
コミュニケーションで情報提供と自己選択をするということは、この人たちにはとて
も音味の深いことです。いろいろなストレスを感じていてもこの方法でしたいという選
択がしにくい特性を持つ、しかも周囲からは理解しにくい状況でどうすればよいのか。
それは自分で決定したくないということを意味しているわけではありません。ただ、
決めるのが遅かったり、必要な情報を入手したり出力したりが苦手なのだと思ったほう
が良いようです。言葉を耳で聞いて理解するのが若手な人にはティーチプログラムの絵
や現物や写真でを見る方法をとりいれる。自分でコミュニケーションがとれないためス
トレスが内面に溜まってしトまうことが少なくありません。またそういう視点がないと
援助者側からの積極的に情報を提供して自己決定を促すアプローチも減ってしまうので
す。たとえば、アメリカの研究では「レッドカード」を使い、疲れてくると「レッドカ
ード」を見せることによつて「自傷」が減ったという事例がある。
N.セルフコントロールする力
セルフコントロールする力があれば行動障害は起きないことになります。だから、そ
れは非常に難しい課題です。だから、一番最後にもとめられる課題としています。でも
それはできないと言うことを意味していない。適切な課題を通じてセルフコントロール
する力をつければ良いのです。それは好きなことを通じて行えば良いのです。たとえば、
好きな課題を椅子に座ってやるということをすると本人には知らず知らずのうちに、椅
子に座っているという初期のセルフコントロールの力がつく。好きな課題を完成させる
のにも、もうやめたいという気持ちと戦っている内面があることを理解することである。
弘済学園の作業学習もそのようなものとしてとらえている。まずは、やさしい課題から
始め、服を着ることも同じような視点から見ていく必要がある。
おわりに、長期的な視点でものをみていくことである。不安定な時には何を言っても
聞いてもらえない。言うことがますます悪化させると言うことを知らなければならない。
傾向は常時把握しながらも、何ケ月、あるいは年の単位で考えることを心に留めてほし
い。
(記録 北門)
(編集 三島)