きずなへ
※平成12年11月18日(土)奈良女子大学 理学部G棟1Fで行われた第2回強度行動障害について理解を深める会で
示されたレジメ。当日は講義と共に記録ビデオも公開された。
自閉性障害にトウレット症候群を合併した強度行動障害児の支援のあり方を考える
弘済学園 楯 雅博
はじめに
幼児期から小学校低学年にかけて比較的順調に家庭生活を営んできたケースが、小学校5,
6年生になると突然行動障害が強まり家庭や学校などの地域生活に大きな支障をきたすように
なり、施設入所してくるケースは少なくない。
強度行動障害特別事業を担っている弘済学園では、このような不適応を示しているケースの
療育支援の検討を進めてきた。とりわけ、自閉症とトゥレット障害の合併例の療育について
は、過去の該当するケースから、行動分析と有効なアプローチの在り方が整理されてきた。平
成7年3月に報告された「知的障害施設における治療教育法の開発的研究;(飯田雅子,三島
卓穂,中島洋子)」には、「強度行動障害の成因を考察すると、本人のもつ脳中枢神経系の発
育不全等の多様な素因が存在する.これらの障害に起因する基本的な特性は、環境からの不当
な圧力が加わると当初の障害特性を更に増幅していく。即ち、器質的な脳障害に基づくケース
の強度行動障害の一部を含めて、対応する側が行動理解を深めようとする基本的態度に裏打ち
された十分な受容的環境を用意していない場合、彼らの行動は自己の欲求の表現として強度な
行動障害を生起させる。更に、これを体罰や抑制威圧や放任により対応すると例え一時的に行
動が抑止できたとしても、必ずや他傷や物損等の自暴自棄行動やパニック等の拒否的、反抗
的、攻撃的行動を示したり、固執や常同行動、自傷などの逃避的、強迫的行動になったり、恐
怖症などの神経症的行動を生起させ、二次的障害特性として固執させていく」と述べられてい
る。
これら、強度行動障害のある児童に対して、24時間体制の受容的環境の中で支援する学園
への社会的ニーズは年々高まっている。学園の療育支援体制の利点(小集団の活用,少数担任
制,構造化された環境)によって行動障害が軽減していく例は少なくない。また、今まで気付
かなかった個々のケースの特性が整理できる利点もある。
今回の事例報告は後者に当たり、現在支援中のケースである。
対象
1.対象児の生育歴と概略
K君. 昭和62年生まれ。父42歳、母39歳の時に生まれた。一人っ子。 出生時異常
なし。首のすわり3カ月、始歩13カ月、始語12カ月。
乳児期は、よく寝る子で夜泣きはなかった、発声はあった。
3歳時、言葉の遅れを指摘され児童相談所通所。知的に遅れがあり器質的障害の疑いもあっ
たが、両親ともになかなか障害を認めず、集団に入れればなんとかなるとの思いで幼稚園に入
園。親はそこで他児との差をみて遅れを認め、養育だけの問題ではないことに気づき、ゆうか
り園で自閉症と診断されたこともあり、知的障害児通園施設を希望する.しかし幼稚園長の
「障害のある子ではない」の考えで、ゆうかり園のフォローをうけながら幼稚園を継続した。
小学校は普通学級に入る。入学当初より授業中座れない、他児を押す、噛む等の行為があっ
た。3年生になり噛みつき、物投げ等が激しくなり、普通学級での対応が困難になり、4年生
の時に特殊学級に編入した。
問題行動が激しくなってきたのは、10歳ごろである。外出を嫌がり家庭内で過ごすことが多
くなる。注意されたり、思い通りにならなかった時に問題行動が出るようになる。 低学年
の時は身体が小さく、暴れても母親が力で押さえつけて止めていたが次第にカでは抑制が効か
なくなってきた。それでも家庭内で暴れている間は家族が我慢していれば良いと考えていた
が、隣家に椅子等を投げ付けたり、外出時にスーパーや弁当屋に飛込み食料品、弁当等を撒き
散らしたり、注意されると他人を叩いたりという行動が出はじめ、家庭だけで対応するのが困
難になってきた。
両親は施設の一時利用制度でなんとか対応してきたが、自分たちの年齢と体力の衰えから、
本児の行動が続くならば現状の生活を続けるのは困難と考え施設入所して行動改善を望み、11
歳時に当園に入園。
入園時の行動障害得点は、自傷1,他傷1,こだわり5,物壊し3,食事3,
排泄5,騒がしさ1,パニック5で合計24点で強度行動障害と認められた。
@認知適応面
12歳時にIQ20と判定を受けている。生活の流れは十分理解できているが、本児が感じ
る不合理な動きや変更には抵抗感を示す。散髪は何度も経験を積むとスムーズに適応できる
が、父母会のプログラム変更は、カードと言葉でも了解がつかずイライラする。文字学習は以
前に経験しているが、教材パズルを投げる、本を引き裂く等の行為になる。物の名前はよく分
かる。ピカチユーのぬいぐるみを見て「ポケモン」。キティーのぬいぐるみを見て「ハローキ
ティー」。ナイキのロゴマークをみて「ナーイキ」という。担任の顔をみて「ダルマ」と言い
当てることもあった。
A言語社会面
呼称反応は有り。担任、お友達の名前も言える。「ご飯食べる」「おててつないで下さい」
「おすわりください」「ねんねこする」「おやつ、ぼくにも下さい」と要求言語あり.「やめ
て」「くすぐったいからやめて」とう拒否の言葉もある。日常生活上の言語指示理解はでき
る。質問に対してはオウム返しになる。気持ちが亢進しているときは、CMのフレーズ等をよ
くしやべる。現在、言葉遊びを試行している。
B行動障害の実態
平成11年度
入園当初から次に示すようなさまざまな固執行動をみせる.場面の開始時や終了時に必ず先
行する,椅子を床に叩きつける,ペアーのケースの腹部を揉んだり手の甲をひっかく,決まっ
た場所にくると他児を押し引きする,特定のケースの頭部を壁に打ち付ける,指を鼻の奥まで
入れて鼻血を出す,階段の2段目で手をふる,お茶をこぼす目的で一気に飲む,ドアを壁にた
たきつける目的で開ける、などである。
平成12年度
固執行動は変わらずつぎのような行動がみられた。
午前中の状況を述べる。
教室に入ると教材を投げる,引き出しを力いっぱい開ける,教室を出る時にTVのスイッチ
を何度も押す,衝動的に担任や他児を押す,特定の鏡を見て大声で叫ぶ,階段のへり爪先をあ
てながら登る,靴脱ぎのとき靴かごを投げる,着席後は腕ふりなどの儀式に没頭する,音感ウ
ォーキング中に他児を押す,衿をひっぱる(対象者は限定される),プログラムの切り替わり
ごとに儀式的行為を繰り返す,終了後は他児や担任の衿をつかみ引き押し倒す,トイレのドア
を押し開ける,排尿では洋服と両足にひっかける,散歩前の靴脱ぎでは靴を窓に投げ付ける,
玄関のドアを叩きつけてあける,外に出たとたん他児を押し倒す、おとなしく座っているが帰
る合図と同時に他児を押す,ドアを押し開ける,お茶のみではわざとこぼすように飲み投げ付
ける,車の絵本を見ているが終わりに近ずくと表情が険しくなる,他児を押し倒す,担任への
衿引きが強い、特定場所で強引さが顕著にみられる、がある。
午後は次のような状態である。
受け入れは比較的おとなしいが、教材投げや教室を出る前の他児への押し引きは強く出る,
特に体育前は行動が荒くなる,体育館までの移動ではドアの開け,他児の押し,体育館ではも
の投げ,うなり声が強く唾を吐く,壁に頭や手の甲を何度もぶつける,体育の取り組みでは、
ランニング前と曲の替わり目には身体を倒し後頭部を床に叩きつける,ランニングが終わると
担任や他児への衿引きが出る,取り組み終了後は再び叫び声,頭つき手の甲を壁に叩きつけ
る,体育終了時、担任の指示と同時に担任の衿を引きつねりがみられる,その後衿ひき他児へ
の押しが続く,おやつ前の洗面所では必ず決まった椅子を倒す,手洗いでは石けんを床に投げ
付ける,食堂へ移動前激しい押しが出る,おやつではコップや皿を投げる,おやつ後は椅子倒
し,担任を押し引きしながら洗面所へいく,ここでも椅子を倒す,帰寮前にリックを他児に背
負わせようとしたとたん他児への押し倒しが出る,生活クラス迄の移動では強引さが特に強
く、対象が限定されない押しがでて日課を終えるという状態であった。この時期は目覚めが早
く 5:00〜6:30 迄にかけて行為の荒さが目立った。特に指導室のポットなげの固執が起
床時からみられた。
行動障害への支援の経過
平成11年度
儀式的行動に対しては、まずは集団にきちんと導入していく対応をとり、こだわりは極力止
めていくようにした。その結果、こだわりは減少し、家庭での1週間休みでは、それまでみせて
いた儀式的行為が消滅していたそうである。しかし、再び学園生活が始まると、学園では消滅
していたこだわりが復活していた。その後の冬休みは、ガスコンロをいじりボヤ騒ぎを起こ
し、3学期も儀式的行為が数多く復活してしまう。特に、現在の行動から次の行動に移る時に
強く出てしまう。たとえば、日課クラスから生活クラスにバトンタッチする前のエレベーター
前では職員がついていないとかなり強いものが出る。又、担任の違いによって指導員室の電気
ポットを叩き壊すといった激しい行動がみられた。日課から生活クラスに帰る時、今日の生活
担任は誰であろうかと執拗に気にしたり、起床時に早番が誰先生かををしきりに覗きにくる姿
に、人に関係した強迫性があることが観察された。
平成12年度の経過
【1学期】
@自閉性障害への支援
社会的(対人的)相互行動の質的障害への具体的支援として、友達とのペアリングの習
慣化や役割活動を通して目的意識を高め、対人関係を形成していった.また、著しく限局さ
れた活動と興味の範囲への具体的支援については、構造化を軸に集団のプログラム展開で見
通しにつなげ不安感を軽減していく方法をとった。
Aトゥレット障害への支援
行動療法的視点から行為を止めていくことを徹底する。そして、「粗暴行為、衝動性の
軽減」を主訴に薬物療法を活用していく。
本児の示す儀式的行動はトゥレット障害の抑制のきかなさと自閉性障害の同一性保持の強さ
に起因していると捉え、まずは昨年度の対応を継続しながら状態観察をした。
昨年度の経過では、集団にきちんと導入して、儀式的行為に対して切れるものとそうでない
ものとラインをひき、徹底して進めると行為は軽減するということであった。
自閉的傾向の強い本児にとって、集団にいることを手がかりにしながら構造化したプログラ
ムを展開していくことは有効であった。意識的には高いものを持っており、集団をモデルにし
友達とのペアリングを習慣化させていくことにより、負荷をかけずに目的行動に導いていっ
た。これらの経過で、儀式的行為について、対応によりこだわりを減少することはある程度は
可能であった。
その反面、移動や場面の切り替わりでは他児への押しが非常に強くみられることがあった。
これは、もともと聴覚過敏であることから、ベースが落ちてくると他児の存在が苦痛になり思
わず手が出てしまうようであった。そこで、集団の中で動くことは本人にとって大きな負荷が
かかっているのではないかと考え、集団の構造化ではなく、個の状態に応じた構造化に切り替
えた。このことで、物理的に他児への押し倒しは軽減した。その一方で他の場面に行為が移行
するかと懸念したが現状維持で済んだ。
しかし、8月の精神科薬抜薬後2週間目くらいから今まで大人しく待てていた場面が待てな
くなってきた。これは抜薬により抑制が効かなくなり、もともとの衝動性、多動性が強くなっ
てきたと考えられる。これについて、タイマーを活用していく方法も一考したが、状態が不安
定な時に新しいことをチャレンジすることは不快な体験や不安を助長すると判断し、場面の終
点での時間調整をしている。
強迫性障害へのアプローチとして、一般的に有効とされているのは行動療法である.強迫的
な行動を徹底的に抑制することが効果的とも報告されているので、一時期止めていく方針を
とったが、その場面の儀式的行為が消滅したとしても、出る場面が移行するに過ぎないという
限界が見られた.例えば、日課の時間に儀式的行動を徹底的に止めていったとしても、より強
いかたちで生活クラスの帰寮時に椅子投げや机倒し等の行為に至ってしまうことがあった。こ
のように、行動療法を活用しても、儀式的な行為を全くなくすことはできないこと、行為を中
途半端に抑制すると儀式的行為をより強化させてしまうこと、抑制することで更に不快さを増
し腹いせ的にガラスを割るなどの二次的行為に至ってしまうこと、が見られた。
【2学期】
@自閉性障害への支援
言語性および非言語性コミュニケーションと想像的活動の質的障害への具体的支援とし
て、キーパソンを位置付け内面洞察をし心情を的確にキャッチすること、非言語的コミュニケ
ーションにより適切な行動ヘマネージメントをする方向で取り組む。
Aトウレット障害への支援
行動療法的視点から行為を適切な行動で発散させ、「衝動性の緩和」を主訴に薬物療法を
活用していく。
1学期の状態観察および実践経過から、本児の示す行動障害は、トゥレット障害に起因する
抑制のきかなさからくる衝動性と、過去の経験において障害を適切に理解されずにきた心理的
ダメージが二次的障害になって現われていると考えられた。前者へは薬物療法が不可欠にな
る。後者へは、幸い両親には大変可愛がられてきているので愛着行動が獲得しやすのではない
かと思い特定担任をキーパーソンとして位置づけていった。そして内面洞察を深め、表情やし
ぐさを的確にキャッチし心情を汲み取りながら彼の要求を実現していった。その過程で特定担
任への愛着行動が芽生えて<る。反面、儀式的行為の対象も担任へのつねりが大半を占めるよ
うになってきた。また、同じ時期に多弁やうなり声が多くなってきた。うなり声は気持ちが内
に向いている時、多弁は気持ちが外に向いている時に出やすい傾向にあることが分かった。意
図的に本児へ関わりを求めていくと、チック行動の背景にある要因が掴みやすくなった。行為
の頻度や強度、その時の様相により、注目や甘え等の顕示的要因からの行為、逃避的要因から
の行為、要求手段としての行為、アンビバレントな側面からの行為、行動抑制困難からの行
為、不安や自己防衛的な要素からくる行為が背景にあることが考えられた。
そこで、衝動的行動(チック)を抑制する視点から、対人関係を深めながら衝動的行動を発
散させる視点をもち非言語的コミュニケーションを通して適切な行動ヘマネージメントするよ
うにしていく。
儀式的行為の対象が物だと行動がマネージメントできにくいが、人だと適切な行動ヘマネー
ジメントしやすい。対人閑係を基盤にしながら、衝動性のエネルギーが蓄積される前にどの程
度適切な方向に導いていけるのか試行をおこなった。
具体的なマネージメントの方法として、
@一日の中で衝動性を発散できるプログラムを設ける.缶つぶし,金槌打ちなど動的プログラ
ムを積極的に取り入れエネルギーを正当なかたちで発散させる。
A行為に対しては、コミュニケーション障害(意志が伝えられない)も考えられたので、その
行為の出る時に状況、強さ、頻度から内面洞察し、気持ちを本人にフイードバックしていく。
「やりたくないのね」早くやりたいのね」「ガマンデキナイのね」
B状況により人の存在がマイナスの刺激になる時は、距離をとり状態を見守る。
Cアンビバレントな側面からの行為に対しては、本人をさすり動作をモデルにしていく。「さ
すって」「いい子いい子といいながら」本児をさする。アイコンタクトをとり、目を見てくる
時は、甘えのサインで指をしやぶることが多い、つねりはくすぐりっこの遊びに転換できるこ
とがわかる。逆にアイコンタクトがとれず、攻撃的につねりがみられる時は、目を閉じて頭を
撫でてあげることで徐々に力が抜けて甘えに転化できることがわかるようになってきた。
D不安感がある時は、身体を接触し安心感を与えてあげることが効果的で緊張感が抜けていく
場合もあった。
E強い不安や混乱から行為が強い時や抑制困難な状態の時は、ゴムゼリーボールを用いて代償
行為として転換する.場面を替えて気持ちの切り替えを図りたいところだが、同一性保持が強
く不安感を助長するにすぎなかった。
F対象の物から人への移行の仕方としては、止められる行為を一度止める。ただし、止め方は
環境設定などによる間接的な止め方でなければならない。止めるだけでは次の対象物へ移り再
現されるにすぎないので、次の行為が出る前に人への意識を強化しながら好ましい行為に導
く。対象が人になることでの利点は、その人が存在しないと行為は出ないことである。人の介
在が抑制ではないのでストレスにつながりにくい。先走り傾向についても人への意識が強化さ
れることにより我慢できる姿が出てきていることは喜ばしい。
考察
障害特性の整理
本児の場合、自閉性障害の同一性保持の強さに、トゥレット障害の強迫性の部分が絡んでい
るところに支援の難しさがある。
本児の儀式的行為の対象は、@人+A物+B場面(時間)の3つが考えられた.(表−1)
昨年からの経過を整理すると、昨年度の実践では、人のウエイトが大きかった。例として、
日課の時間は儀式的行為はほとんど出ないが、生活クラスにバトンタッチする前から受ける担
任を気にして特定担任への強迫性が強くなった。特定担任の時は、食事場面でコップを投げな
いと気が済まない。
今年度に入り、昨年の実践を継続した時期は、確かに「人」のウエイトが大きいように思え
たが、儀式的行為の一日のトータル量は変わらないように思えた。例えば、生活クラスで儀式
的行為が少ない日は、日課では強く出る傾向が、逆に、日課で少なかった日は、生活クラスに
戻ってから強くみられ今まで見られなかった行為も誘発されていた。
集団の動きから個別の動きに移行した時期は、人よりも物へのウエイトが大きくなった。生
活クラスによる担任差はなくなってきたが、特定の物をみると場面に関係なく、決め付け行為
をやらないと気がすまない傾向が強かった。例として、教材をみると投げたがる,散歩前後ド
アをみると打ち付けたくなる。指導員室のドアを2階、3階、4階と開けたがるなどである。
個別の動きを優先し、行動をマネージメントしていく時期では、「場面(時間)」のウエイ
トが大きくなってきている。例として、指導員室のドアは2階のみ開けたがる。散歩前はドア
を押しつけたいが帰りはやらない。儀式的行為の一部であるうなり声は、衝動エネルギーを充
電している感じである。このうなり声の後に行動の荒さがみられやすい.薬物療法により衝動
性の緩和が望まれるが、現状は眠気などの不快さに打ち勝とうとさらにうなり声や行動に荒さ
がみられる。薬物療法での効果があがらないので衝動エネルギーを抑制するという視点から、
いかに正当なかたちに導いていくかが課題になる。
対応論の整理
@自閉性障害への支援
・社会的(対人的)相互行動の質的障害
友達とのペアリングの習慣化や役割活動を通して目的意識を高め、正当な行動へと
導く。その過程の中で対人関係を形成する。
・言語性および非言語性コミュニケーションと想像的活動の質的障害
キーパソンを位置付け、内面洞察し心情を的確にキャッチする。
・著しく限局された活動と興味の範囲
構造化を軸に集団主体のプログラム展開で見通しにつなげ不安感を軽減する。
Aトゥレット障害への支援
チックを抑制する視点から発散させる視点へ
・アプローチA(集団主体;行動抑制)
・アプローチB(個別主体;行動発散)の比較を下表に示す.
|
アプローチA
|
アプローチB
|
主な行為
背景要因
場面限定
愛着行為
薬物療法
担任差
メリット
デメリット
|
他児の押し倒し
特定の人
あり
なし
効果なし
大きい
集団がモデルになり動き
の手がかりにできる
行為の対象が他児になりやす
い.人や場面による行為の
出方の差が大きい
|
担任へのつねり,うなり声
場面、物
あり
あり
効果なし
小さい
他埠への影響は少ない.
組み立てが確立すれば、スト
レスも少ない.
先走り傾向になる.
|
・薬物療法を活用する。
おわりに
自閉症とトッレット障害を合併したケースの適切な支援のあり方については、随分整理され
てきている。今回の事例でもその分析と有効なアプローチを参考にしながら進めている。日々
の実践の中で、儀式的行為に対しては集団に導入して、やるべきことを提示しながら徹底して
止めていく方が本児にとっては良いのか、人が介在し行為を許容しながらひとつの方向へ尊く
トライを続けるべきか、今でも自問自答している。いずれの方針にしても、ひとりの人間が同
じ関わりを持って接することは大切であるが、24時間の入所施設の勤務では難しい。職員の対
応を統一することで本児のひとつのルーティンを作り、それに沿って行動することによって落
ち着いた生活が送れるのではないかと推測する。
一方で、薬物療法が不可欠になるのは言うまでもない。但し、入園前のDr所見に「お薬の
調整が難しいタイブ」とある。両親も眠気や目あがりが出ることを非常に気にされており、精
神安定剤抜薬中の夏休みでは、いつも同様物品がかなり破損した状況が予測できたが帰省後の
コメントには「物品は直せば直ります。本人が元気に過ごせば何よりです」とあった。服薬に
関しては、両親の意見が尊重されるのは当然である。しかし一方で環境設定の配慮が相当必要
であるし、また、一担任制の日課システムでは、対応に限界を感じることもある。危険な行
為、儀式的な行為は、屈強の職員が徹底して止めていけば一時的に止めることは可能であり、
それをパターン化すれば最終的には本児の穏やかな過ごしにつながるとする考え方もある。
しかし、客観的にみるとそこには体罰と受けとめられるような方法でないと止められない現
実もある。たとえ自分の時は止められたとしても、止められない弱い人のときには行為が強化
されて攻撃、破壊行動が増し迷惑をかけてしまった経験もある。
障害者の権利擁護が叫ばれ社会の目も厳しい昨今である。学園でも倫理綱領委員会が発足し
より良い支援について議論がされている。理念ではなく、綱領に添った実践を続けていきたい
と願っている。
【参考文献】
*「(連載)弘済学園の自閉児教育」(実践障害児教育)
*「知的障害施設における治療教育法の開発的研究」飯田雅子,三島卓穂,中島洋子
(1996)
*「トゥレット障害と自閉症を合併した強度行動障害への分析視点と扱いへの示唆」
飯田雅子・三島卓穂(発達障害医学の進歩1994)
*「トゥレット障害と自閉症を合併した強度行動障害例」三島卓穂(94全国愛護)
*「トゥレット症候群」太田昌孝(臨床精神医学;現代の精神症状と症候群)
*「強い行動障害改善への援助−トウレット障害という視点からの接近−」
こうさい療育セミナー第7回抄録集(1995)
*「家庭で多動と物壊しなど激しい行動障害をしめした自閉症児への援助」
こうさい療育セミナー第11回抄録集(1999)
*「強迫性障害」中澤恒幸・中嶋照夫
*「強度行動障害をみせる不安感の強い自閉症児への援助」厚生科学研究
*「年少で破壊と攻撃性の強い強度行動障害への支援の経過」厚生科学研究
きずなへ