無料-
出会い-
花-
キャッシング
HOME
自閉症児の思春期の内面を探る
奈良県立医科大学精神科 飯田順三
【1】思春期とはどんな時期?
@第二次性徴(身体的)
A自立と依存の葛藤…両価性(心理的)
【2】思春期心性
1)前思春期(9〜12歳)
男女別れて集団化、ギャングエイジ
同性の仲間との遊びに性差
迫りくる性的変化に対する不安の前ぶれ
2)思春期前期(13〜15歳)
「私の身体に何が起こっているのか」戸惑う世代
ニオイに敏感になる
容貌、容姿、立ち振る舞いに関心
自分の身体の変化に対決を迫られる。
男子…声変り、射精、自慰行為
女子…月経、乳房のふくらみ
両親に秘密をもつようになる
3)思春期中期(15〜18歳)
「私は一体何者か」
限られた友人との間に友情
異性に対する関心、両親との内的訣別
依存と自立の間を揺れ動く
4)思春期後期(18〜21歳)
「これが私だ」 同一性の確立
男性性、女性性の獲得
※発達障害児も健常児と同様な思春期を迎える
【3】自閉症児における思春期の発達課題
1)友達仲間との関係をいかに発展させていくか
2)身体像の変化をどのように受け止めるか
3)母子分離と自立をいかに達成していくか
4)同一性(アイデンテイテイ)をいかに獲得していくか
【4】発達課題を遂行するための援助
1)前青年期の母子関係の混乱を少しでも早く収拾させること
2)男らしさの振る舞い方を獲得するために父親の関与を促すこと
3)母子の分離と自立のための心理教育的援助を行うこと
4)社交の場を確保することで異性との交流の機会を作ること
5)人間としての自尊心と若者としての誇りや自信を保つためには、彼らの容姿、
身なり、振る舞い方について心を配る
【5】親の立場から
1)親の人生における精神的負担の大きい3度の時期
a)障害について知らされた時
b)恒常的に家庭で世話をしなければならなかったり、親なき後にその子ど
もがどうなるかという問題に直面した時
c)親が障害児の思春期にどのようにつき合っていくか悩む時
2)親はわが子のセクシャリティについて複雑な感情を抱いている
a)自分の子は一生子どものままであれば、それはそれでよいと思っている
b)思春期にはいって性的に成熟していく過程では、ほとんどの家族がこれ
に対応する心の準備がないのでストレスの多い状態を作り出してしまう。
【6】性教育の必要性
1)発達障害児の人々の大多数が正常な第二次性徴をとげ、こうした性的な変化
とそれに伴って生じる情緒面を理解できるようにしなければならず、この点
健常児に比べて一層の援助を必要とする。
2)知識を与えることは性的にもてあそばれたりするのを防ぐ。
3)性の問題に関して、どんなことが責任ある行動で、どんなことが無責任な行
動なのかを社会が教えもしないで、責任ある性行動をとるように要求するの
は非現実的なことである。
4)性教育はそれだけ別個に指導するよりも、健康教育の幅広い枠の中に統合す
るのが最善である。
【7】思春期にみられる症状
1)てんかん
思春期頃より発症するてんかんがあり、特に自閉症に多い。
発作型は大発作が多く、抗てんかん薬による発作のコントロールは比較的良
好。
てんかん発作開始の少し前から理由の判然としない異常な精神運動興奮を呈
したり、病的退行を示す例がある。
2)病的退行
情緒的混乱、心理的母子分離の課題
3)思春期パニック
a)ホルモンバランスの変化など身体の急激な変化を基盤とするパニック
・てんかん発作の始まり
・うつ病性の mood swing
・母親を巻き込むこだわりから母親に限定した激しい暴力
自己の身体橡の中に母親が組み込まれている
パニックの頻発と強迫的、儀式的行動は相関
b)感情表出の未分化から生じるパニック
・楽しみにしていた旅行の前の夜に必ず大パニックを生じる
喜びである興奮もパニックになってしまう
・単純な歯痛などの身体要因
・無理な課題に対する悲鳴
症例 1
N 1973年生まれ 男性
知的能力はIQ40台で、助詞のない3語文により簡単な会話が可能な青年である。小学絞高学年頃から肥満と突発的なパニックが頻発するようになり、家庭内では母親への激しい暴力が生じ、家庭外でも他の児童への突発的な攻撃行動が頻発した。そのために小学校高学年からpimozide 3mg 、levomepromazine 30mgを継続的に服薬していた。中学生年代は最も激しく荒れた時期であった。毎週のように器物破損や母親への他害が生じ、母親はあざだらけになっていた。しかし高等部に入学するころから、自分でパニックを抑えようという努力がみられるようになった。いらいらしてくると、力みながら妙な動作をして奇声をもらし「発作起こしたらいかん」と自らに言い聞かせているが、それでも学校行事の負荷などをきっかけとして母親への激しい暴力が頻発することがあり、そのようなときには短期間の入院を余儀なくされていた。16歳の冬、祖母が入院し間もなく死去した。Nは何度も祖母のお見舞いに行っていたが、葬儀のときも特に騒ぐことなく参列ができた。しかし母親は祖母の死去の後、Nがそれまでつけていた絵日記を開こうとしなくなったことに気づいていた。葬儀が終わり、両親の兄弟が集まり祖母の話をしていたとき、突然Nは久々に大パニックを起こし、1時間余り荒れ狂い居間にある物を壊しまくった。母親によればNはぽろぽろ泣きながら暴れていたという。このエピソードの後、パニックは激減し、また言葉による表出が豊かになったこともあって、苛立ちを我慢する力も増した。いらいらしているときには、中学生時代に教師から激しく叱責を受けた不快湯面を一人で反復していることがあった。このころ、いらいらしているとき父親に「抑えられないのか」と諭され、「止まらないんだわ、このパニックみたいなものは」と泣きながらいったというエピソードがある。高等部卒業後、Nは授産所に通うようになった。24歳の冬、父親が死去したが、その直後には大きな反応はなかった。秋になり父親の墓開きの日に、父親の古い友人がNをドライブに連れ出してくれて、Nは大喜びで出かけて行った。その夜、Nは久々に大パニックを起こし、居間の飾り棚、腰掛け、電灯などを壊してしまった。この時も「泣かない」といいながら泣いて暴れていたという。
c)自我の芽生えによるパニック
・指示的言動が不快体験へのtime slip
・本人の意向や自尊心を尊重することが必要
d)思春期パニックへの対応
・近年思春期パニックは減少している。その要因として早期療育の成果
が挙げられる。
・学童期に社会的スキルの訓練とともにストレス耐性を引き上げる練習
・他者を巻き込んだこだわりはエスカレートする可能性が高いため消去
の対象となる。
・趣味の開発
・青年期以後に容易に可能であるように、歯科や耳鼻科の治療の経験、
服薬の練習
・薬物療法
抗精神病薬 セレネース、ヒルナミン、etc
抗うつ剤 アナフラニール、ルジオミール、etc
感情調整剤 テグレトール、リーマス、etc
・社会参加の経験
作業療法的な視点
4)強度行動障害
症例 2
K 1972年生まれ 男性
Kは言語理解はあるが、自発語は全くない重度精神遅滞を伴う自閉症青年である。
養護学校中等部2年生までは、儀式的行為はあるものの、おとなしく、指示の通りのよい児童であ
った。3年生の終わり頃、人の顔をみてにやにやしながら自傷をする。性器を出していじり、いじ
った手の臭いを嗅ぐ、目の前で唾をだして遊ぶ、人に唾をかけるなどの問題行動が頻発するように
なった。きっかけは特に思い当たらないとのことであるが、同じ頃状況判断が向上したことに母親
は気づいており、また同時に指示に対する抵抗がみられるよつになった。またちょうど同じ頃、妹
が不登校を生じるようになり、母親はその対応に苦慮していた。Kは通所施設に通い始めたが、問
題行動は治まらなかった。母親は強い叱責を加えて阻止を計ったが、逆にエスカレートを招き、顔
が変形するような強い自傷が頻発し、そのため眼球の外傷を生じ、眼科的治療を要するまでになっ
た。母親はこのような挑発行為を止めさせようと必死になり、患児を棒で叩いたり、紐で縛ったり
したが憎悪するばかりであった。この時点で著者は相談を受けた。
Kに対してまず薬物療法を開始し、母親には力での対決を止めるように指導た。また妹の不登
校が家族、特に母親に強いストレスをもたらしていたので、母親に登校拒否になりかけていた妹へ
の対応の仕方も具体的に指導した。これらの治療の結果、挑発行為は激減した。その後既に8年間
が経過したが、挑発は散発的に続いているものの、自傷はほぼみられなくなり、母親も現在では対
応法を理解しているので困惑することはないという。
Kの場合は、途中で著者による治療的な介入を受けて挑発行為をある程度止めることが可能となっ
たが、もしこの介入が行われなければ、恐らく強度行動障害へと進んだものと考えられる。
挑発行為…自閉症における再接近期の現象
他者から表出される最もわかりやすい感情は怒り。
注意喚起行動
5)心身症、神経症
チック、抜毛、脱毛、消化性潰瘍、不登枚、強迫症状
6)感情障害
7)周期性興奮状態(周期性感情障害)
8)分裂病様状態
【8】長期転帰
1980年代後半を境に長期転帰
TOP
HOME
[PR]動画