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第2回奈良県における強度行動障害について理解を深める会 H・11・8・18
奈良市総合福祉センターでの講演レジュメ
障害児学級での実践
大阪府堺市立御池台小学校 教諭 浅井 郁子
1,はじめに
「強度行動障害」とは、どのような障害なのでしょう。なぜ、自閉症と診断される青年
に多いのでしょう。今日、自閉症の原因については、中枢神経系の広汎な機能障害が基礎
にあることが推定されています。また、その特徴として、社会性の発達障害や、言語発達
およびコミュニケーション能力の障害、想像力の障害、さまざまな感覚障害が認められ、
行動の偏りや、不適応行動は、それと環境との関わり合いによって起こると考えられてい
ます。この特性から考えると、自閉症の人と接する場合、お互いが「どうすれば理解し合
えるのか」を探しだすことが第一に求められるわけです。また、学校等での自閉症児に対
する教育では、その特性を理解し、彼らが自分の生活を豊かにし「可能性を伸ばし」「自
立」「社会参加」をめざしていくためのさまぎまな配慮、指導方法を考えなければなりま
せん。<行動障害→自閉症の青年>には、どうも上記の理解、配慮が欠けてきたのではな
いでしょうか
現在、 TEACCH プログラムは、自閉症児、者の「社会参加」をめざした包括的なプ
ログラムとして成果をあげ、評価されています。 TEACCH プログラムから学んだこと
を基礎として、学校教育の中での行動障害を有する子ども(主として自閉症児)への理解
援助、配慮の在り方、生活カを高めるための指導の在り方を考えていきたいと思います。
2,行動障害について
・行動障害とは?
・強度行動障害特別処遇事業とは?
・なぜ、行動障害を起こすのでしょう?
・なぜ、自閉症と診断される人に多いのでしょう → 自閉症の特性とかかわっている
3,自閉症の「障害観」と「教育観」の変遷
・1943〜1960後半 カナー(kanner.L)ら
精神疾患・児童分裂症の最も早期に発病したもの。一次的原因は、対人関係障害である
家庭環境・家庭環境等心因重視→遊戯療法、親に対する精神療法→情緒的きずなの形成
・1960後半〜1980 ラター(Rutter.M)ら
言語・認知の障害。社会的、ならびに行動的異常は二次的障害である
脳の器質的障害→行動療法→言語、認知能力の形成
・1980以降 ウイング(wing.L)ショプラー(Schopler・E)ら
社会的相互交渉の障害、コミュニケーション障害、想像力の障害 等
広汎性発達障害→特殊教育、自然な文脈の中で個々の固有の発達に関して→生活力の形成
原因? 辺縁系および小脳の異常
大脳半球の機能分化と協調の障害
左半球の機能障害や左右半球間の機能分化の障害と感情障害や社会性欠如の関係
心の理論
ウイング−自閉症に関する知識が集積しているが、治療法に結びつかない。進歩したところは、障害を最小限にし、潜在的スキルを最大限に発揮させるような環境と
か日課プログラムを作り出すことが分かったこと。
オゾノフとキヤスカートの研究(1998)− ・この30年間で自閉症の人と家族に対する教育と治療は大きなs進歩を遂げた。
・有効なプログラムに共通する特徴は(モデルや理念に関係なく)
@構造化された行動療法的で教育的なアプローチ
Aプログラムを家庭で実行してもらうために親をトレーニング
B五才迄に開始する
4,
TEACCHプログラムとは?いま、なぜTEACCHプログラムが注目されるのか
Treatment and Education of Autistic and related
Communication handicapped Children
ノースカロライナ州における自閉症およびコミュニケーション障害児・者の
ための幼児から成人期に至る一貫した療育・教育・援助システム
↓
「社会参加・社会的自立をめぎす」
5,TEACCHプログラムの原理と哲学(基本的な考え方)
@自閉症の理解と受容
A個別化、個別的配慮の視点
B構造化のアイデア
C包括的で人生全般への支援
D保護者との協力
E自立的活動や生活への支援
◎ジェネラリストモデル
6,自閉症とは?
(1)自閉症の「障害」を理解しましょう。(WHOの定義から)
@身体的障害 impairment(一次的障害)
脳の器質、機能障害である.環境(人や物)からの情報の処理機能の障害
対応:医学的レベル(決定的、具体的な対応方法はなし)
A能力障害 disability(二次的障害)
コミュニケーションの障害 人との閑わり(社会牲)の障害 想像力の障害
感覚処理の障害 学習スタイル の障害
対応:個々の特性の明確化。適性力を伸ばす指導。
B社会的不利 handicap(三次的障害)
「〜ができない」「〜しない」「困った行動をとる」さまぎまな行動障害がおこる
社会生活上制約が多い。自分の気持ちにそった生活ができない。ひとりで活動できない
対応:一人一人の特性にあった「やさしい環境づくり」をし、生活の安定を図る。
その中で適応力を伸ばしていく →
構造化
(2)情報の処理機能の障害・コミュニケーション障害について理解しましょう
@ 情報処理機能障害
・情報や刺激を統合したり、順序立ててとらえることが難しい。
・言語や状況の意味することを理解することが難しい。
・はじめとおわり、時間の観念を理解することが難しい。
・臨機応変に行動できない。
↓
自閉症の苦悩
ことばの世界に引き入れられることに怯え傷ついている・
ことばでいわれたことは、すぐ消える。記憶に残る方法で情報がほし
い。
A「コミュニケーション」とは、なんでしょう?
言語または身振り、表情などを用いて、知識、意見、感情、願望などを伝達また
は交換しあう社会的行為(教育心理学小辞典 有斐閣)
┌――A―――┐ ┌―――B――┐
│ 理解 │→表出 メッセージ→ │ 理解 │
└―――― ―┘ ←メッセージ 表出←└―――――-┘
↓
コミュニケーション
→ コミュニケーションの形態いろいろ
話しことば・文字・サイン・身振り・写真・象徴する実物、品物
直接行動
他者からのメッセージを理解する 理解 =受容性コミュニケーション
他者にメッセージを伝える行為 表出 =表現性コミュニケーション
メッセージを相互に伝え合うという目的を持つ行為 社会的相互作用(やりとり)
お互いになんらかの通じ合う方法を見つけて伝え合おうとしている。
自閉症の入達とは、なんとか通じ合う努力をしているだろうか?
B自閉症の人たちとコミュニケーションするために必要なことは?
自閉症の人達に何かメッセージを伝えようとする際、通常の私たちのやり方で
はうまく伝わらない ↓
自閉症の人達のコミュニケーションを拒む壁は、私たち側(環境側)にある。
↓
周囲の環境が自閉症の人達にとって「意味あるもの」となり、そこから必要なメ
ッセージを受け取れるような配慮が必要
↓
自閉症の人ひとりひとりに合わせて理解できるよう
環境の側を
再構成する = ひとりひとりに合わせて「構造化」する
(診断・評価に基づき)
資料
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自閉性障害における短所と代償的長所
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
短 所 代償的長所
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コミュニケーションの授受 視空間スキル
短期聴覚記憶 長期記憶 特に 空間的記憶
硬さ(柔軟性の欠如) 構造化やルーティン化による上達
対人的孤立 作業技術を習得できる可能性
固執的行動と限局的な興味 根気強さ、課題に取り組み続ける力
物や話題への固執 特別な物への高い関心。(教育的、職業的
専門的技能を発達させるために使える
(Edwards,D,R,& Bristol,M,M,1991)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
C「構造化」についての理解
(a)「構造化」を行なう目的は?
自閉症の人達が
@環境からの情報を「理解しやすく」する
A理解することにより、安心して、落ち着き「混乱や不安を感じなくてすむ」よ
うにする。
B自分の特性に合わせて「より効果的な学習」が行なえるようにする。
C将来に向けてより高度な「自立を達成」していくための補助具としての役割を
もたせる
D視覚的なシステムを用い、適切な行動とは、どんな行動かを知らせ、適応力を
高める。「決まった枠」を利用することによってどこが変わったのかという
「変化」を教えていくことが可能になる。
(b)どのような情報を どのように伝える配慮が必要か?
どこで、いつ、何を、どれだけの量、どのように取り組み、終わったら何がある
か(たのしいことがまっているか)をひとりひとりの理解しやすい方法(アイデ
ア)ではっきり示す配慮が必要
(c)「構造化」された環境の中で生活するということは、
「構造化」された環境 ………理解しやすい 混乱や不安を感じない
↓
「受容性コミュニケーション」の力が高まる
↓
「自分で」「自分から」活動できる ………自律性の獲得
↓
求められていることが理解できるので「選択」「正しい応答」ができる
「表現性コミュニケーション」を育てる………自発性の獲得
↓
楽しい、うれしい、できた、わかったという成功体験
………自尊心が育つ
構造化のアイディアいろいろ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
@
どこでするのか(場所の意味)をわかりやすくする
→物理的構造化
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(a)ひとつの場所を多目的に使わない。年少児や、理解の遅れの大きい子どもには、
場所と目的とが、1対1対応するように示す。
ex,教室では、食べる場所、遊び場所、ひとりで学習する場所、皆で学習する
場所、スケジュールの置いてある場所 分けて示す。
→ 〜をするときは、この場所。 この場所にきたら〜をする。
(b)各々の場所の境界が見てわかるようにする。
ex,ついたて、棚、カーテン、色の違うカーペット、等で仕切る。
(c)気が散らないように工夫する。
ついたて、カーテンで不必要な刺激を遮断する.壁に向かう.学習場面に余計な
ものを置かない。静かにする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A いつ、 何をする、がんばったら何がある
(活動や、行動の時間・流れ)をわかりやすく示す。→スケジュールの構造化
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一人一人の活動の予定をその子どものわかる形で、順序にしたがって提示する。
(a)提示の順序(決まった枠組み)を決める。
提示は、上から下へ 左から右へ行なう
(b)わかる形を考える(アセスメントの結果を参考にする)
どんな提示をすればわかるか 具体物(実物)、写真、絵力一ド、線画、
(形態) 文字、文章、 または それぞれの複合型
一度に提示する長さは、どれぐらいがいいか
(長さ) 次のひとつだけ、部分的(2〜3程度)
半日、一日。
どんな提示の方法ができるか カード式 ┌ 移動型
(タイプ) └ 固定型
リスト式┌ ノート型
└ 携帯型
○提示する場所は、よりわかりやすくするために一定の場所であることが望ましい
一定の場所 → 携帯型(移動型
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
B
なにを(どの課題)、どれだけの量、 終わりは
終わったら何がである
をわかりやすく示す
→ワークシステム
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その場での活動内容をその子どものわかる形で提示する。
自分のとった行動と、それにともなって生じる結果とを結びつかせる関連性がわか
るようにする。
(a)提示の順序(決まった枠組み)を決める
提示は、左から右へ 上から下へ
(b)何の課題をするのか、わかる形を考える(アセスメントの結果を参考にする)
・左から右へ(そして終了箱へ)〓課題、カード
・カードのマッチング =色、形、文字、数字
・文字で書かれたリスト
(c)「終わり」をはっきりとわかるようにする
・実物やカードがなくなったら終わり一終了箱の利用
・リストのすべてがチェックできたら終わり
(d)「終わったら何があるのか(楽しいことがある)」を示す
・がんばったら好きな遊びができる
・ ティータイムが待っている
・ お給料がもらえる
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Cなにを、どのようにする
をわかりやすく示す
見て取り組み方がわかるようにする →視覚的構造化
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自閉症の人の苦手な「聞いて理解する活動を最小限」にし、得意な「見て理解する
活動を利用」して色々なことを伝えていこうとする工夫
(a)見てわかる指示(視覚的指示)の方法を考える
・カットアウトジグ(型はめの要領)
・ジグ(見てわかる課題・作業の指示書)→ 写真、絵、製品の一部分、文字
・文字で書いた説明、指示書
・完成品の提示
(b)見てはっきりわかる(視覚的明瞭さ)方法を考える
・カラーコーデイネイトする
・容器(カゴ、箱)にいれる
・汚れ等が目立つようにしておく(洗濯、掃除の学習場面)
・広すぎるものは、区切っておく(掃除の学習場面)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
D(いつも)
〜したらつぎに 〜する
習慣化した流れをつくる →ルーティン化
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自閉症の人は「同じ」ということを受け入れやすい。
仕事の手順や日常生活習慣は、経験して覚えていく自閉症の人の理解を助け、安心
感と自信を育てることになる。
(a)ルーテインを築く方法を考える
・同じ活動の流れを繰り返す
・スケジュールをチェックしていく
※注意
・構造化は、自閉症の人が、安心して過ごせるよう、また、自律的な生活が過ごせるよう
になることを目的として行なっていきます。自閉症の人の生活が豊かになることを願って
取り組んでいくものです。従って、いつでも彼らの希望が取り入れられるよう選択の、協
議の場を用意し、共に考えていく姿勢を保っていてださい。
・親や教師が構造化の一部になってしまわないように注意してください。「この人がいな
いとできない」内容は、その自閉症の人には適していない内容だと考えましょう
・これらの構造化のアイデアは、自閉症以外のコミュニケーション障害のある人にも有効
事例1
「著しい行動障害をともなっていた自閉症児が、卒業式に参加できた」
- TEACCHとの出会いが彼を変えた
・対象児の実態
・なぜ問題行動がなくならなかったのか
・問題行動が意味していたことは……
・彼を不安にさせない、混乱させない、裏切らないためにはどうしたらいいのか
・構造化のアイディアは、彼の自尊心を育てた
・構造化のアイディアは彼のことばを豊かにしていった
(2)学校生活、家庭生活を楽しく、豊かにするための配慮、指導
・どうしたら掃除ができるのか
・どうしたら近くのスーパーやファーストフード店で買物ができるようになるの
か
・どうしたら調理ができるようになるのか
・余暇の過ごし方のレパートリーを増やす
(3)交流教育の場へ自律的に参加するための配慮、指導
・教科学習への参加
・行事への参加
(4)卒業式へ参加するための配慮、指導
・「しおり」の作成
・体育館の床に貼られた白いテープ
(5)現在、高校1年生になった彼から学ぶこと
事例2「AACアプローチにより他害行為がなくなりコミュニケーションが
豊かになった重度知的障害児の事例」
AACアプローチとは、Augmentative & Alternative Communication の略(拡大、代替コミュニケーション)
障害のある人が、自らの意志で、その人自身の能力を活用し、その人にあった手段で 他者とより豊かなコミュニケーションを築くための方法
(1)「わからない」ことへの不安と混乱に対する配慮
TEACCHの構造化のアイデアの活用
・対象児の実態
・学校での指導、配慮
・家庭での配慮
(2)「伝えたい」「お話しがしたい」ことへの配慮
・カードの活用
・VOCAの活用(Voice Output Communication Aids)
おわりに
障害児学級(養護学級)でコミュニケーションに「障害」のある児童がいきいきすごす
ために大切になことは
@個々の特性を把握し、配慮する。(評価 → 構造化)
A学校全体の職員が児童の特性、特に自閉症児教育に対して基本的に同じ考えである。
B「わかりあうこと」を大切にする
C生活文脈を大切にした教育を行なう。
D子どもたちの適応能力を向上させていく。
E保漬者との「連携」を大切にする。
F通常の学級担任との「連携」を大切にする。
G学校間での可能な「連携」の方法を模索し、試みる。
《参考図書》
◆自閉症の人による手記
「自閉症だったわたしへ」ドナ・ウイリアムズ著 河野真理子訳(新潮社)
「心という名の贈り物−続・自閉症だったわたしへ−」 同上
「我自閉症に生まれて」テンプル・グランディン著 カニンガム久子訳(学研)
「自閉症の才能開発一自閉症と天才をつなぐ環−Thinking in pictures」同上
「変光星−ある自閉症の少女の回想」 森口奈緒美(飛鳥新社)
「この星のぬくもり」曽根富美子(ベネッセ)
◆TEACCHプログラムに関する図書
「自閉症療育ハンドブック−TEACCHプログラムに学ぶ−」 佐々木正美著(学研)
「自閉症のトータルケアーTEACCHプログラムの最前線−」 佐々木正美監修(ぶど
う社)
「自閉症児と家族」E.ショプラ−編著 田川元康監訳(黎明書房)
「自閉症の評価」 E.ショプラー編著 田川元康監訳(黎明書房)
「TEACCHプログラムの教育研修 自閉症の療育者 E.ショプラー、佐々不正美監修
(神奈川県児童医療福祉財団)
「自閉症のコミュニケーション指導法」E.ショプラー他著、佐々木正美/青山 均
監訳(岩崎学術出版社)
「新訂 自閉児・発達障害児教育診断検査一心理教育プロフィール(PEP-R)の実際−」
E.ショプラー /茨木俊夫 (川島書店)
「青年期・成人期自閉症教育診断検査−心理教育プロフィール(AAPEP)の実際−」日本
AAPEP研究会編 E.ショプラー / 茨木俊夫(川島書店)
「個別教育計画の理念と実践−IEP長期調査研究報告書−」(安田生命社会事業団)
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