きずな
〓〓〓〓 10年先を見通した子育てと教育 〓〓〓〓
(自立を目指す自閉性障害児者のライフサイクル)
社団法人日本自閉症協会奈良県支部 教育相談員 西田 清
奈良ADHDの会 ポップコーン 事務局長
〒634−0802 奈良県橿原市新口町137−1
・fax
0744-23-3362 Eメール
T自閉性障害児者の発達
1昔言われた情緒障害ではなく、機能、認知の発達障害です。発達障害ですから、社会的
な技能の獲得は、なるべく早くから行なうことが重要になってきます。
★自閉性障害児についての訳語は、ロシアでは「友達と一緒に遊べない子」というふうに
訳しているが、適切な訳だと思います。「自閉性障害児者は、内にこもろうとするので
はなく、他の人に対して自分の意思を、言葉や表情でどの様に表したらよいのか分から
ない。また生活上の社会的なルールに、どのように対応したらよいのか分からないで、
戸惑っている障害である」と理解するのが、より自閉性障害児者の実態に近づいた考え
方であると思われます。物事に敏感過ぎる自閉性障害児者に対して、脅かさない、強く
迫りすぎない、この二つの点を配慮した指導が大切です。
(1)自閉性障害に対するとらえ方の変遷
@第一世代の自閉性障害(情緒障害説などがいわれた)
1943年 カナーによる「早期小児自閉症」は、ア 情緒的な接触の欠如
イ 言葉をコミュニケーションとして用いられない ウ
・同一性の保持
エ 良好な潜在能力と発表。
日本では器質的な研究が重視されずに、情緒的な接触の欠如と言う面が強調されす
ぎて、短絡的に、親の育て方が不十分で自閉性障害児になったという間違った説が
マスコミの一部などから流されたりして、誤解が世の中に広まってしまいました。
「親のせいだ症候群」という全く間違った説が広がり、親が受難の時代でした。
A第二世代の自閉性障害(脳の認知障害説へ、コペルニクス的障害像の転換)
自閉性障害への研究や実践の広がりと深まりを見せた1970年代になると、情緒
に問題があるのではなく、脳のある部位の何らかの不具合による障害である、とい
うことが(ラターやショプラーやウイング等)状況証拠であるがとことわりながら
主流になってきました。そして日本でも、この説が医師や学者の研究と相まって、
養護学校義務化などもあり、実践的にも、この脳の認知説が裏付けされてきました
B第三世代の自閉性障害(脳の機能・認知に問題があることが医学的に明らかにされ
はじめました。教育の現場などでも、実践的にそれが確かめられてきました。)
脳の内部の働きを知ることのできる、CTやMRI等の医療機器の発達により、自
閉性障害の原因と思われる箇所等が明らかにされつつあります。扁桃体、海馬、小
脳(新小脳虫部のY小葉とZ小葉に限定して縮小している)、大脳辺縁系の萎縮や
前頭葉の脳波異常、ドーパミンレセプターのD4の関係などが指摘されています。
しかし、完全に解明されたわけではありませんし、まだ論争が続いているなど、さ
らなる研究の成果が期待されています。(図で説明します)
・自閉性障害の基本的な障害は、情報の入力過程(認知過程)の障害であると言われ
ます。指向性の注意の障害が基本的な障害で「自閉性障害は注意を向けること、必
要な場所に注意を集中できない障害」といわれます。
尚、10年以上前から私達は、自閉性障害という用語を使っています。自閉性の障
害よりも、まず先に人そのものを大事にする。その人には自閉性の障害があるとい
う意味で、自閉性障害という言葉を用いています。ヨーロッパなどでは、こういう
意味での使い方が主流になってきています。
Cローナ・ウイングの自閉性障害の基本的な考え方、障害の三つ組「自閉症スペクト
ル 東京書籍 1998 年」で次のように述べているのをまとめてみますと
ア 社会性の障害「症状のなかで中核的なものである。視線が合わない、どこかへ
すぐに行って迷子になる、相手と気持ちの交換ができない等の、社会的な相互
反応に問題がある」
イ 言語、コミュニケーション障害「言葉の問題(言葉が遅れる、おうむがえし、
会話の成立の困難、高機能自閉性障害児者でも、冗談が通じない等)」
ウ 想像力の障害と結びついて行動の障害「常同行為やこだわりから、社会的な行
動の障害」
D1995年のアメリカのDSM−Wによる自閉性障害の診断項目
ア 生後36月未満までに発症する。
イ 他者に対する反応の全般的な欠陥が見られる。
ウ 話し言葉が存在する場合は、即時の又は、遅延反響言語、比喩的言語、代名詞
の逆転のような特異な言葉のパターンが見られる。
エ 周囲の様々な状況に対する奇異な反応、例えば変化への抵抗、生命のある対象
あるいは、生命のない対象への特異な興味、あるいは愛着を示す。
オ 精神分裂病におけるような、妄想、連合弛緩、支離滅裂などが存在しないこと
E自閉性障害は、生涯にわたる発達障害です。見るもの、聞くもの、その他感じるも
のを正しく理解することが困難な障害です。社会関係やコミュニケーションおよび
行動面で適応に問題を持っています。しかし、障害の軽重に関係なく、幼児期から
の10年先を見通した、工夫されたきめ細かな療育を長期にわたって受けることで
青年期の頃には、幼児期には考えられないほどの、発達をしている自閉性障害児者
が、日本中で何人も育っています。
私の関係した子どもたちのなかには、異性を好きになったり、仕事を一人前以上に
出来るようになったり、車の免許を取得して通勤している人等、自立に近い生活を
している人達が何人もいます。障害が重いか軽いかなどということよりも、どのよ
うな教育を受けてきたかによって、青年期以降の発達や自立が決まることが多いよ
うです。
(2)自閉性障害スペクトラム
近年、高機能自閉性障害や、アスペルガー症候群と言われる人達の存在が、新たな注
目をあびてきています。そう診断された人達が、教育の現場にもおりますので、より
きめ細かな自閉性障害の教育の開発や対応が望まれます。重い自閉性障害から、知的
には発達の遅れはあまり目立たない軽度の自閉性障害を含めて、自閉性障害スペクト
ラムと総称します。ここでは、比較的新しい高機能自閉性障害と、アスペルガー症候
群について少しだけ触れておきます。
@軽度の自閉性障害の一つを、高機能自閉症と呼称します。知的にはIQ70以上の
範囲にあるのだけれども、社会性、相手の感情や思いを、言葉や表情や動作から、
的確に理解できません。社会的な暗黙のルール等が理解できない等、があります。
能力のアンバランスも目立ちます。日本でも過去にベストセラーになった本「自閉
症だったわたしへ」の著者、現在イギリスに住んで、作家として自活しているドナ
・ウイリアムズが、高機能自閉性障害と言われております。
NHKの特集に出演したり、講演活動で2000年に来日し、私も彼女の公開セミナー
に参加してきました。彼女は知的にも感覚的にも優れた人ですが、高機能自閉性障
害の特徴をかなり持っておりました。
また、アメリカの女性で「我自閉症児として生まれて」「自閉症の才能開発」学研
から翻訳本があり、大学の助教授であり、会社の社長でもあるテンプル・グランデ
ィンもそうです。彼女らのおかげで、私達は自閉性障害の内面や思考の特徴を知る
事が出来、以後の自閉性障害児の教育に役立てることができます。
Aアスペルガー症候群といわれる、知的にはあまり遅れが目立ちませんし、高機能自
閉性障害とほとんど障害の部分が重なりますが、その他に独特の障害があります。
2000年の春に放映されたTVドラマ「君が教えてくれたこと」のモデルと言われる
翻訳家のニキ・リンコさんは、30才代になって始めてアスペルガーと診断され、
自分の障害を理解したとき、「今まで人と違う。普通にならなければ、と悩んでき
たが、アスペルガーとしては、自分は普通なのだ。」と納得して、普通の人間にな
らなくては、と思う脅迫観念から解き放たれて、自由な自分を発見できたと言いま
す。今は、ホームページをもったり、Eメールで世界中の同じ仲間の人と意見を交
換したり、障害者の書いた英語の本の翻訳をして活動しております。
Bカナーが主として重い自閉性障害の研究していた時代、アーストリアの小児科医の
ハンス・アスペルガーが、第二次世界大戦中に、軽い自閉性障害について研究して
論文を発表しました。彼の論文はドイツ語で書かれていたこともあり、長い間埋も
れておりましたが、イギリスのローナ・ウイング等が研究評価したことなどから、
近年になって世界的(主にヨーロッパ)に注目され、評価されるようになりました
ウイングはアスペルガー症候群の特徴を、次のように述べています。(1983年)
ア 共感性の欠如 イ 無邪気で、穏当を欠く、一方的な人への接し方
ウ 友人関係を作る能力の欠如か、希薄さ エ
過度に細かく、繰り返しの多い話
し方 オ 非言語コミュニケーションの乏しさ カ
特定の関心事に強く凝り固ま
る キ 動作の不器用さや組み立てのまずさ、姿勢のおかしさ
C「学校では、能力のアンバランスさに先生は気づきます。特殊な興味に非常な集中
力を発揮したり、独創的な方法で問題を解いたりします。それとは対照的に、他の
子たちが教室では興味を持って行う活動への意欲や関心の無さ、一部の領域に特異
な学習能力の障害があるという評価結果、動作の不器用等が見られます。教室内や
校庭では、人との交流から引き下がりがちで、他の子たちにからかわれる傾向も先
生からは心配されます。」ガイドブック アスペルガー症候群 トニー・アトウッ
ド 東京書籍(1999)
最近の日本では、このような症状は、幼児期にはADHD(注意欠陥多動性障害)
とも間違われることがありますので、気を付ける必要があります。
2自閉性障害の特徴について
言葉の使用や問題行動など「他の人から見ると、自分の世界に閉じこもる」よう
に見えるがそうではありません。36月までに発症します。一番の特徴は、言葉を相手と
のコミュニケーションの手段としてなかなか使えない事があります。また、人やまわ
りに対する過敏性と、その結果による不安感のために、固執性やパニックが見られる
ことが幼児期には多いです。何事にも過敏過ぎるので、いつもと違ったりすると、不
安になる事がありますが、経験を積むことや、見通しを付けてあげることで、問題行
動を減らしていくことができます。
@パニック
自分に与えられた要求が、高すぎたりする場合に起こします。逆に、低
問題行動 すぎると常同行動になってしまいますので、子どもの認識に合った接し
方を、いつも心掛けてください。
・問題行動やパニックを否定的にとらえないで、発達的に理解することが
大切です。保護者や指導者から見れば問題なのだが、本人は言葉で表現
できないので、言葉の代わりとしての一つの表現であり、訴えであり、
働きかけや、それに対する反応の結果であり、別に問題ではないのです
療育者は、そこからその子が何に興味を持っているのか、どんな手の動
きや体の動きができるのかを見つけ出して、指導の手掛かりとしましょ
う。ただし、危険な行動に対しては、子どもの発達に見合った規制を、
毅然として行なうことも大切です。
ア 自傷行為「エネルギーが自分自身に向かい、内向化する。」
重度の子に多く、中度に発達すると減り→主体のエネルギーが発達す
るにしたがって、内から外へ向かう。
イ 他傷行為「エネルギーが外に向かう。他人に向かい、人に向かう」
中度の子に多く、本人の持つエネルギーが、物や人に向かってくる現
象で、叩いたりしてくるが、発達の証である。
ウ 自傷行為、他傷行為は、禁止と規制することだけよりは、その子の発
達の現実から出発して、別の興味を育ててやる。時間をかけて、興味
の持てるものを作ってやることで、解決を図ることができる。さらに
拘りや問題行動を生活に役立つものに発展させたり、趣味(切り絵、
カラオケ、山歩きやスポーツ等)として発展させるられる。やり方ひ
とつで、問題行動を少なくする事ができ、生活を豊かにすることに結
び付けることができます。
エ 常同行動、低次元の感覚刺激としての常同行動は、感触、ひもなどへ
の固執、手をひらひらさせる等、重い子程多く、エネルギーが外に向
かないが、それらの行動を生活に役立つ方向へ向かわせることができ
ます。体の幹や手指の発達をさせ興味を広げると、少なくなります。
オ いつもと違うと、どうしてよいか分からなくなり、前にうまくいった
行動を機械的に繰り返し、パニックや常同行動の反応を起こします。
カ 多動は、幼稚園のころから小学校1年生のころにかけてがピークをむ
かえ、小学校の中学年の頃になると納まってきます。自分が興味を持
って遊べる物、場所などが決まってきますと、多動がおさまります。
思春期になると、今度は反対に寡動(動かなくなる)が見られます。
寡動にしないためには、幼児期からの自分の身の回りのことは自分で
できる。お手伝いや家庭内労働等は自分で判断して、責任を持って行
動できる子どもに育てておくことがポイントになります。
・生活リズムを整えたり、生活経験を増やして、物事への対応の仕方を細かく学んで
身につけていき、自分で見通しができるようにしてやりますと、だんだんとパニッ
クが減ってきます。絵本の読み語りや、お絵描きを十分にして、言葉と動作の結び
つきを、楽しみながら学びとれるようにしましょう。行動と言葉とを結び付けられ
るように配慮しながら、自分で描いたカード、絵やマーク、絵日記等を使って自分
の思いや感情を表現できるようにします。これらの事を遊びを中心にしながら、相
手と感情や意思の疎通ができるように、短期の見通しと長期の見通しをもって、焦
らないでして指導してください。これを繰り返すことで、人間を相手にすることが
楽しいという経験を沢山積み重ねてください。決して、暴力や言葉での脅かしての
指導をしてはいけません。自閉性障害児は、教えないことは覚えません。自然に学
びとるということは、不得意です。
A味覚過敏
味覚が過敏な為に、偏食になってしまう場合があります。偏食の子が多
臭覚過敏 いが、温度が違うと同じミルクでも飲めません。私の教えた子は、牛乳
のメーカーの違いを飲み分けられました。給食の牛乳が飲めたのに、家
では牛乳が飲めないので、よく調べてみましたら、メーカーの味の違い
で飲めないのが分かりました。学校と同じ牛乳に家でもしましたら飲め
ました。味に対しても、自分のなれた味以外は拒否します。生野菜(サ
ラダ)やリンゴのシャリシャリした音や歯に当たる感じには、とても耐
えられないで、食べられない子もいます。牛乳や食べ物(ご飯、味噌汁
等)の温度の違いで食べられなくなりますので、温度が違っても、同じ
食べ物であることを、だんだんと分からせる取り組みが必要です。
また、臭覚も過敏なために、匂いの気に入らない食べ物などは、匂いを
嗅いだだけで、食べようとしない場合があります。
B触覚過敏
肌や、髪の毛等に触られるのが嫌いな子。木綿に科学繊維が混じってい
ると気になって、脱いでしまう。靴下などはけない子もいます。
触覚過敏な子もいることに注意して、衣服の着脱指導をしましょう。
新しい着物の肌触りに慣れるまでに、一定の時間がかかる子もいます。
新しい着物のゴワゴワした感覚に耐えられない場合には、洗濯をして柔
らかくしてから着せてやる事が必要な場合もあります。握手などでも、
触られるのを嫌う場合には、相手の手の温度が自分より冷たかったり、
肌触りが悪かったりすると触れません。その時には、その子と同じ温度
に手を温めたり、子どもの好きな肌触りの布で手袋を作って、手にはめ
てから、段々とどの人とも握手できるようにしてやりましょう。
・逆に、他の人のサラサラした髪の毛や、肌触りのよい皮膚などには、相
手構わず触りにいく場合もあります。他人にやたらと触ることは、知ら
ない人には、痴漢と間違われることがあるので、幼児期から他人には、
やたらに触らないよう、習慣付けてやることが大切です。
C聴覚異常
私達は、多くの音の情報のなかから、自分に必要な音だけを選んで聞く
ことができます。必要な音を選択し、不必要な音をカットするバリアを
張ることができます。自閉性障害児者は障害の為に、テープレコーダー
で録音したときのように、不必要な音を含めて全ての音を拾ってしまい
ます。つまり、自閉性障害の人は、音に対してはバリアフリーの状態な
のです。そこで、手で耳を塞いだり、耳のなかに指を入れて自分の嫌い
な音(サイレン、飛行機の音、救急車の音、泣き声、混雑した場所での
騒音)から逃れようとする子もいます。その時には、耳を手で覆ってい
るのを許容してください。自分に必要な音だけを取り入れよう、と努力
している結果なのですから。スーパーなどへの買い物などには、ヘッド
ホンをして、外の音をカットする工夫をしている子もいます。
D光の刺激
好きや、嫌いな強い光の刺激があると、それに気を取られてしまい、自
分が何を買いにきたかも思い出せなくなる事があります。なるべく光の
強い刺激のない場所や、刺激を防ぐための工夫(サングラスかけるとか
)を考えてください。経験を重ねていくにしたがって、自分で工夫した
り、慣れたりするようになります。
E多動から寡動へ
体の成長とともに、脳の生理学的変化もからんで、中学生の頃か
ら、やらせるとするが、やらさないとしない、現象が起きる子もいます
活動の意欲を持てない子や、親や指導者から強圧的な指導を受けると、
〔発達障害論、第一巻 白石正久著 かもがわ出版より「暴力的な指導
や、物事の内容を子ども自身が納得・理解していないのに、無理やりや
らされてきた場合に起こります。思春期ごろからの寡動傾向のある子に
とって『○○したい』という人間にとってもっとも大切な、基本的な権
利を奪われつづけることになるので、結果として『指示待ち人間』にな
ります。また自分の意思を強く持っている子は、ストレスからパニック
におちいり、人間としての大切な心がねじまがってしまうことになる。
」〕と述べておられますが、ある特定の訓練法などをずっと強制されて
きた子のなかには、不登校になったり、パニックを起こしてしまってい
る子が出てきています。
高機能自閉性障害者からみた世界(多分、他の自閉性障害の人も、同じような感
じだろうと記録などから推察されます。)
@ドナ・ウイリアムズの感覚のシステム(体で世界を感じる。感覚を通して世界を理
解する)
・私達健常者は、マルチチャンネルであるので、同時に見たり聞いたりした事柄を総
合的に判断して、表情や行動や言葉として出せる。つまり、パソコンのように印刷
しなが文章も作成できるように、同時に幾つもの処理が簡単にできるのです。
・『自閉性障害児者は、取り込める情報量が少ない「単一のチャンネル」なのです。
自閉性障害児者は、一度に受け止められる、情報量が圧倒的に少ないのです。
ですから、会話をするときに相手の顔を見たとすると、相手の表情の意味を理解す
ることにワンチャンネルを使い切ってしまうので、空いているチャンネルが無くな
ってしまいます。そのために、相手が何を言っているか処理できず、分からなくな
るので、意識して目をそらす子もいます。また、相手の視線が怖い(人間の視線に
は圧迫感が有るので)、ちらりと見て確認するだけの子もいます。彼らは「じっと
見られるのは、赤ちゃんの人見知りを50倍にしたほどの怖さがある。」そうです
ので、彼らが自分から視線を合わせにくるまでは、無理に視線を合わさせようとし
ないようにしてほしいものです。(大阪でのセミナーでの発言から)』
A『自閉症を完治できる魔法のような治療法は存在しないのだから、親達は、自分の
セラピー方法を広げたいばかりに、途方もない成果を喧伝する人達の口車に乗らな
いように注意すべきである。効果的な療育法は、自閉症者に無理な要求をしないも
のだ。一人の自閉症者に有効だった方法が、必ずしも他の自閉症者にも効くわけで
はない。有効な療育法や教育プログラムは、膨大な資金をかけなくても実施できる
献身的な親や、有能な教師たちは、独学ののち、彼ら自身で効果的なプログラムを
作っている。彼らは高い授業料を払って、訓練を受ける必要はなかった。親たちは
研ぎ澄まされた直観を信じるべきである。さまざまな違った方法を試してみて、効
果あるものを続け、そうでないものは捨て去るがいい。いくつかの違った方法を組
み合わせると、相乗効果が生じることがよくある。「自閉症の才能開発」テンプル
・グランディン著 学研発行 1997年より』
U 自閉性障害児者の指導
1障害児者独特の認知を生かした指導
(1)問題行動の指導
@周囲との相互関係の結果として誘発され、強化されていくという認識を持つことが
必要です。一つの課題を習得させる場合には、最初は必ずといっていいぐらい抵抗
があります。2〜3週間してうまくいかないときには、その方法が合わないので止
めましょう。一つの事を定着させるには、自閉性障害の場合には、3ヵ月から半年
の期間が必要な人が多いです。完全に自分のものにして、それをベースにして新し
い方法などを自分で考え出せるようになるのに、長い時には10年程度かかること
もあります。
A教える側の指導が一貫性を欠いた場合、よく混乱を起こします。特に、子どもが大
きくなると、こういう例が多いです。受容しすぎる指導と、禁止する指導というそ
の都度違った対応によって、自閉性障害児は不安になるので、統一した指導が必要
です。
B空白の時間、適切な課題が与えられない時、空白の時間が長くあると、自分の世界
に入ってしまい、こちらの課題の世界へなかなか戻ってこられなくなります。
Cパニックを起こす場合
パニックの原因を探ると、幾つかの条件が浮かんできます。
ア 無理な要求をされた場合 イ 本人のレベルに合わない ウ 自分の予定の日
課が予告なしに、急に変更させらた場合
次の場面や、他者の意図への抵抗が強いために「見通せない、自分の能力以上の事
に対応しなければならないという不安」の時に起こすことが多いので、見通しがで
きるような生活設計をさせることが大切です。何処かへ電車で出かける場合は、出
発から帰りまでの駅名や行く場所等を絵や文字のスケジュール表を渡し、目的地で
何をするのか等を絵や文字で理解させます。何時に家を出て、何時頃に家に帰れる
のかも計画の段階から話し合って、1日の生活を見通せるようにし、始めと終わり
を意識させて不安を取り除きます。障害の重い子には、今自分が何をしている最中
なのか感覚的に頼れる物(例えば電車に乗っているときには、電車のミニチュアを
持たせてあげる等)を持たせますと、落ちついていられる子もいます。
Dオウム返しの時は、提示が理解出来ていない場合に出るようです。その時は、単一
の整理された、具体的な提示に変えてやるとよいと思います。
(2)教育内容の特質と、訓練や治療との違いを考慮した指導
私達はこの二つの違いを明確にして、指導をする必要があります。学校教育の重点は
基礎的な学力の保障や、社会で生きていく能力を身につけさせることだと思います。
障害児の場合には、そこにプラスして障害を軽減、克服するための治療、訓練が必要
になります。例えば、言語の治療訓練によって言葉を発達させるのと、絵本等の内容
を学習して何が書かれているのかなどの内容を理解するのと、両方とも欠かせないも
のです。作文を書く場合には、どのような内容を書くのかと、その内容を読み手に分
かりやすい文にするには、どの様な文章表現の技術を使用したらよいのかを考える必
要がありますように。片方だけの指導では、学校の教育としては不十分です。両方の
目的が達せられるようにするのが、大切です。それぞれが、独自の目的を持っていま
すので、その事を大切にしたいものです。その事を意識した授業を展開することが、
大切ではないでしょうか。
(3)「自閉症児の発達と指導」全障研出版部(2001年)発行の第4章−自閉症児の訓
練と教育実践の項で、茂木俊彦氏は今評価を巡ってさまざまな意見が出ている、TE
ACCHについて大変興味深い事を書いておられますので、ほんの少しだけ引用して
おきます。ぜひともこの本の全文を読んでみてください。
「自閉症の本態あるいは自閉症の得意なところと不得意な所の両方に着目し、得意な
ところを生かしながら不得意なところについて環境を整理することによって適応力を
つけていくという発想に立っている点についてTEACCHの特徴があるのだと私は
思っています。 略 これは基本的に障害を考慮しながら主として環境を変えるとい
うアプローチだといえます。障害の特質に配慮しながら長所を使って力をのばし、弱
い部分にできるだけふれずに環境を構造化するという取り組み方です。 略
整理すると、TEACCHプログラムを学校全体の実践体系で貫徹するのか、部分的
に行なって教育実践と接合するのか、それともプログラムはやらず開発されてきたい
くつかのヒントを日常の教育に取り込むという形にするのかという選択になります。
私はTEACCHプログラムについて全面的に否定するものではないので、部分的に
個別の訓練のなかで、普段の複雑な生活ではわかりにくいことをわからせるために、
TEACCH的な発想でセッティングするということはおおいにありうると思います
何れにしても、お互い、実践にもとづいた論議を真剣に行なうべきだと考えています
略
教育は治療や訓練によって代替されるものではなく、独自の目的、機能を
持っているのだから、治療、訓練と教育の共同関係が適切につくりあげられる必要が
あるだろうということです。」
(4)言葉(特に話し言葉)での理解のしにくさ
幾つかの情報を組み合わせる統合機能の障害のため、過去の経験から学ぶことが不得
意なので、見通したりするのがなかなか難しく、変化するものになかなか対応できな
いために、状況が違っても同じような対応(固執)をする事が多いです。
・話しかけたり、指示する場合には、電報文のように短く、内容は一つにします。また
は、文字を読んで理解できる子には、簡単な文を書いて示したり、本人の描いた絵カ
ード等を使うと安心して行動してくれます。
〔失敗例 「暑いだろう。顔の汗を、タオルで拭きましょう。」→タオルに息をふ
うふうと吹きかけました。→「汗をふいて」と短く言い換えたら拭けました。〕
(5)自閉性障害児者は、目で考えると言われるように、視覚的な情報があると理解が
しやすいようです。ですから、文字が読める子には、話し言葉での指示が通りにくい
とき には、短文や絵で指示の内容をで示してやると、何べんも見返せるので、理
解がしやすくなります。自閉性障害児者の認知での一番の特徴は、目で考えるという
事です。
ある言葉や場面が出てくると、前に経験したことがまるでビデオのように、その経験
が頭に浮かんできて、どのように対応したらよいかを思い出すのだそうです。この点
を理解して、教材や学習指導を用意することが大切です。この面からも、絵を描かせ
る事や絵本の読み語りから始めて、要求や心の中を描いた絵や単語と結びついた絵日
記の指導が大切になってきます。文字表現ができない子であっても、自分のイメージ
で描いたカードで要求を表現できるようになります。さらに進めば、言葉だけで場面
をイメージできるようになり、文字だけの日記に発展させることが出来ます。それら
が出来るようになると、自分の思いや要求を表現できることから、パニックも減って
きます。
(6)言葉にはならない相手の表情や、雰囲気、態度等の読み取りにくさの弱点があり
ますどの様なことが分かり、どの様なことが理解できず苦労しているのかを、健常者
が、彼らのもつ独特の感性や異文化を理解して、付き合うことが大切になります。
彼らを私達に近づけるのではなく、彼らのもつ独特の感性や文化を尊重しましょう。
ちょうど、日本語の分からない外国人に接するように、彼らの考えや感じ方を理解し
て、彼らの思考に沿って、私達が彼らに近づいた接し方をすることが大切です。
(7)関係の問題
括弧内は、ドナ・ウイエアムズさんのセミナーでの提案からです。
「環境からの情報の過負荷を低減する。チャンネルが単一の人には、単一の方法でア
プローチ。新しい情報、内容、会話を変える場合その時には、その間に3秒の休憩を
与える。行為や会話の速度を落として、与える情報を減らし、残った物を一貫性をも
って、深く処理できる時間を与える。情報の処理を最大限にする。」
話しかける場合には、自閉性障害児者一人だけに話しかける。情報量が多すぎると、
処理できない。→相手が何を言っているのか、情報の洪水だと理解出来なくなるので
単一の情報を与える事が大切です。 西田
2 自閉性障害児を発達させる集団の条件とは
障害児を発達させるためには、最低3つの集団の保障が必要です。青年期はCを追加
同じぐらいの発達集団。ほぼ自分と同じレベルの発達集団で、自分の意思を十分
に伝えることが出来る、同じ交通手段を持った学習集団。
(2)自分が安心して心を開ける、時間的にもゆったりとした生活集団。保育所、幼稚園、
障害児学級や、養護学校では自分の生活年齢の同じ学年の学級などがこれに該当します。
自分よりやや上や、やや下の発達課題を持った、少し大きい集団に参加して、教
えたり教えられたりの学び合える集団。他の障害児学級との合同授業や、普通学級との共
通課題を達成できるように、配慮された交流学級や、障害児学級の町郡市単位の交流
会、養護学校などであれば、小学部単位等の交流などがこれにあたります。
更に、青年期になると、幼児期からの身辺自立等が身についてきている自閉性障害児者
は、かなり複雑な集団への参加や、集団での規制が出来るようになります。
作業所や職場での仲間集団や指導員、家庭などで兄弟や家族に評価されることで、青
年期の荒れや新たなる発達の節を、自らの力で乗り越える事が出来るようになります
3自閉性障害児の集団への接近と参加
以下は、西田が体験した事実をまとめてみたものです。個別の訓練的な療育だけで、自
閉性障害児者を人間として、全面発達を保障することは無理です。幼児期から、心と体
の全面発達を保障し、集団(社会生活)の中での自己決定が出来るように育てることが
とても大切なのです。但しこれは一例で、全ての子どもがこのような順とは限りません
(1)全くの孤立しているように見える状態。
(2)1対1の関係の成立
親(保護者)や療育者の保母教師等、心から信頼できる人だけと関係が成立できる。
自分は参加していないで、小集団から離れているが、時々チラリと横目で集団の
している事を見ている。初めは、3人の集団位がよいでしょう。子どもは、他の2人がし
ている事をじっと見ていて、直接に参加はしないが、見る事での集団への参加を始め
ています。見る参加は、相手のしている事の模倣を、自分の頭の中で何回も繰り返し
て理解します。
集団のそばへ、呼びかけてほしそうに寄ってくるが、呼びかけて参加を促すと、
逃げていってしまう。歌などその場では歌わないが、1人になった時に歌っています。
自分のそばに来た子や、自分が気に入った好きな子、自分によく関わってくれる
子等に、たたいたり、さわったりする参加の方法。この時期に、たたいたことで強く叱る
と、集団から離れていってしまいます。外見的には、否定的な参加に見える時期。
自分に関心を持ってほしいというサインなのだが、どう気持ちを表現したら良いのか
が分からないために、ついたたいてしまうという自分の気持ちと反対の行動が多い。
(6小集団の2〜3人の、特定の優しい子どもと関係ができはじめます。自分がその子や
先生をモデルに、真似をしたら皆のなかに入れる。安心して、そばにいられる子、優
しく関わってくれる子、同じぐらいの発達で交通手段(表出言語やサイン等)を持っ
ている子等が、初めての友達になれます。自分と外界をつなぐ人が重要です。
(7)相手の言っていることが、ある程度理解できるようになると、自分も興味があり、
能力的にも同じ行動が出来る一部分にだけ、参加出来るようになります。
(8)集団の特定の子や、信頼できる人(親や保母や教師)などと、要求が一致した場合
に手をつないだりして、かなり長い時間集団に参加できるようになります。
(9)理解言語が豊富になり、言葉かけで理解できるようになると、指示が分かるので安心
して、大きな集団にも参加し、みんなと同じような行動ができるようになります。
(10)集団に参加できるようになっても、ストレスを解消して次の行動への意欲を奮い立
たせたり、心を安定させる為の場所(障害児学級等)や時間の保障が必要です。
以上の事から、どの段階に子どもが居るのかを見て、集団を選んで参加させましょう。
ケアなどは専門家が担当しなければならない分野まで担当させら
れてしまうことが起こっています。
B個別指導計画と個別教育計画の違いを明確にし、行政に教育環境の整備を迫る必要
・個別教育計画(IEP)は、保護者も作成過程に参加が求められますが、行政当局
がその責任において、障害児のために用意するサービスと、教育指導上の条件整備
の概要を示すものとして作成されます。
・個別指導計画は、集団的な一斉指導の中で、忘れがちな個(一人一人)への配慮を
徹底させる教授 学習過程の個別化の計画です。これは、教授−学習過程を組
織する教師が、自己責任で作成するものです。
・教師は個別の指導計画を持つべきです。しかし、教師が個別の指導計画を持ったと
しても、行政当局が個別教育計画を持たないでよいはずはありません。教育行政当
局が個別障害児の必要とする諸サービスや、条件整備を用意しないがために、教師
が粗末な教育条件下で教授しなければならないとき、個別の指導計画は、粗末な計
画にならざるを得ません。教育条件が貧困な中での個別指導計画は、教師に献身と
努力を強いるだけのものになってしまうでしょう。」詳しくはこの本を読ん下さい
この点、個別教育計画をたてる教育行政の責任と義務をきちんと保障しないならば
個別指導計画は集団への参加はあせらないで、辛抱強く、子どもの発達を保障する
様々な取り組みをするうちに、子どもが自分から参加してくるようになります。自
分で判断することを少しずつ身につけ、自己決定力をここでも大切にしていく。意
味の理解と行動能力の獲得そして何よりも、不安感をなくして自信を持って参加を
することを主体に考えましょう
4.10年先を見通した取り組みを
10年先を見通した時に、こんな青年に育てたいという願いを持つことが大切です。
それを実現させるためには、子どもの現状を分析して、今何ができて、何が課題なのか
その課題を身につけるのには、どうしたらよいのかを指導に関わっている人達で考えて
実践しましょう。集団も保障されながら、個別的なプログラムで綿密に指導され、自己
決定力を身につけた自閉性障害児の多くが(障害のかなり重い子も含めて)、青年期に
なると自立へ向かっているし、自立しかかっている例も数多く報告されています。
(1)個別教育計画の必要性
様々な障害を持つ人に対して、全面発達を保障するためには、長期にわたる個別の指
導計画が必要になります。しかし、現実に教育条件が保障されないかぎり、なかなか
実現性のある指導計画は立てられないことが多いです。教育条件をもっと充実させて
いく観点を忘れないで、個別指導計画は作られる必要があります。
アメリカの個別教育計画(IEP:Individual Education
Progrm/Plan)「個別指導計画を考える」全障研出版 より引用
1997年の障害者教育法の規定によると、この文書は、保護者、障害児教育教師、通常
学級担任(子どもが通常学級に在籍する場合)、教育プログラムの提供に責任を負う
地方教育当局の代表、必要な場合には障害者本人等から構成されるチームにより開発
されるものであり、最終的には保護者の同意を得て発行する文書とされている。
IEPには、次のような事項が盛り込まなければならないとされている。
@当該児童の現時点での教育達成レベル
A達成水準ないしは短期目標を含む測定可能の年間目標
B特殊教育と関連サービスならびに、当該児童に提供される補助的エイドとサービス
通常教育プログラムの修正と教職員に対するサポート
C当該児童が通常学級の非障害児と共同し得ない程度
D当該児童が州や学区単位の統一テストに参加するに当たり、必要となる修正
E当該児童に提供される諸サービスや修正の始期と、諸サービスや修正の頻度、場所
並びに提供の期間
F当該児童が16才の場合、トランジションサービス(学校卒業後の障害者への)の
内容と、それに責任を負う諸機関と連携
G年間目標に向けての当該児童の進歩の測定の仕方と、保護者への連絡方法
具体的には、障害者教育法では、3才から21才までの障害児に「無償の適切な教
育」を提供することがうたわれ、その「適切な教育」は教師が専門家として提供す
る「特殊教育」と、教師以外の専門家が提供する「関連サービス」に二分され、そ
れらの提供の開始、提供の場所、提供の頻度がIEPに記入されます。
(2)日本との違い
@日本ではIEPが法制化されていない。日本の障害児教育法では、要医療的なケア
児が就学することが明白になったら、その子に必要なサービスを明らかにし、教育
行政として整備したり、用意することを義務として明示することなく、子どもの就
学後に対応を考えるシステムになっている。
AIEPが教師だけでなく、教師以外の専門職を含めて障害児の指導にあたることが
前提となっているのに対して、日本の障害児教育法では、この点が必ずしも明確に
なっていないことが指摘されます。本来の教師の仕事は、子どもの発達、障害、生
活の実態を把握しながら、文化財(教材)を媒介として、子どもたちと相互交渉す
る教授活動の組織者であるはずです。ですから、専門家がいないために、機能訓練
や言語訓練医療的絵に描いた餅になり、教師と子どもだけを苦しめる何者でもないこ
とになってしまいます。いちばん大切な、教育環境を整備するということを抜きに
したIEPであってはならいなと思いますので、この点については大いに父母や職
場の教職員の論議と、実現するためには、運動が必要になってくると思います。
V 年齢に応じた発達課題
1身の回りのことを出来るようにしておく課題〔自立の基本〕(発達課題表を参照)
成人までにつけたい力 具体的には、次のようなことを身につけさせましょう。
自力で起床、衣服の着脱、排泄(大便の後始末)、洗面、歯磨き、食器を並べる、箸を
使用して食事する、食事のマナー・食事の後片付け、食器を洗う、ご飯を炊飯器で炊く
包丁を使ってみそ汁や簡単な料理が出来る、洗濯、洗ったものを干して、取り込みアイ
ロンがけ、分類してしまう、針や鋏を使った簡単な裁縫、風呂洗い、雑巾がけ、掃除機
の操作、時計を見て行動できる、靴の右左の区別、信号機の見方や横断の仕方、東西南
北を覚える、小動物などを飼って餌を与える事で愛情表現を出来るようにする等
自己決定をして家庭生活を営み、自立を目指す上で必要な基本的な事です。
2学校教育のなかでの主な取り組みについて
(1)幼児期、児童期から10年後を見通して取り組む課題
一番大切なことは、自分の身の回りのことは、最低限自分で出来る、また自分で決定
して、やろうとする意欲や技能をつけておくことです。この事が、自閉性障害児の一
生を左右するといっても言い過ぎではないでしょう。自閉性障害児は、人の動作を見
て、模倣して自分を変えようとする面が非常に弱いので、日常の家庭生活に必要なこ
とを、細かく丁寧に教えて、身につけさせましょう。家庭内労働が出来れば、就職や
自立できる可能性が非常に大きくなります。
(2)幼児期に身に付けさせたいものとしては
@早寝早起きの生活リズムや健康な体を作るためにも、昼間はタップリと「遊びきる
」事が大切です。太陽の下で風や自然を感じ、水、砂、泥、等の変化する素材を使
ってたっぷりと遊びきる課題としては
・一日の生活リズムの確立をはかる。早寝、早起きなどをはじめ、睡眠のリズム、食
事のリズム、便通のリズムなどを大切に、生活習慣を焦らないで身につけましょう
・身辺自立は心の自立へ、長い見通し(10年ぐらい)のもとに取り組みましょう。
・その子の要求を大事にしながら、皆と一緒に、偏食を無くす取り組みをしよう。
A将来の労働の能力につながる力を育てる課題
・揺さぶり遊びを中心にして、体全体の幹になる部分を育て鍛えましょう。
・足腰、手などの部分をバランスよく発達させましょう。
・手の指、足の親指などを、リトミック等で楽しみながら発達させましょう。
・楽しい共感関係を大切にし、2〜3人ぐらいのゆったりした集団で、相手を眺めて
学び、玩具で遊ぶことを通して、人や道具に興味を持たせましょう。
Bコミュニケーションの課題
・共感関係を持てる人(第二者)の確立と拡大をはかりましょう。
・人間を信頼出来るようにするために、受容、優しさが必要な時期でもあります。
・場面の切り替えの弱い子には、強い提示も必要です。−厳しさも必要−
・顔の表情(感情表現)も教えてやる必要があります。今日は、どんな気分?
自分で顔の表情が描ければ、それを使って表情の獲得の練習をしましょう。
・生活場面を広げて、言葉を必要とする生活を意図的に保障しましょう。
・お絵描きや、絵本の読み語りで、言葉と動作のつながりや、生活経験と結び付けて
イメージ豊かな、言葉の世界を与えてあげましょう。
(3)小学校等での課題
・生活経験を豊かにして、自閉性障害特有の不自由さを軽減する取り組みをします。
玩具などを使って遊べる子、手指を本来の目的に沿って使える子にしましょう。
・生活の場面と教育の場面とを関連させながら、体作りや生活経験を広げながら、行動
と感情の調和と統一をはかります。身の回りの簡単な事から始めて、やれば出来るの
だという自信を持たせます。キップの買い方や目的地までの乗り換え場所、駅名等出
かける前に地図等を使って、次の行動を見通させておくと、自分で理解し納得して乗
っているので、騒いだりパニックを起こしたりしなくなります。理解を助ける具体物
(キップや地図やミニカー)を持たせることで、子どもが安心して行動できるように
しましょう。
・指導者と子どもたちの信頼関係を、子どもとしっかり遊びきることなどを中心にして
築き、物から人へと興味を向けさせ、共感と信頼できる人を獲得させましょう。
@目で考えると言われるように、自閉性障害の特徴・視覚を使った指導を心がけます
日課表なども、自分で描いた絵やカード等を使って、一日の生活や学習の見通しを
持てるようにしましょう。
ただし、子どもによっては耳から(聴覚)や触覚からの入力が入りやすい。目(視
覚)からの入力はむしろ苦手な自閉性障害児者もおり、その子の特性に合わせた選
択が必要な場合もあるので、注意が必要になります。
A場面設定を内容に応じてしましょう。(学習する内容と場を結び付ける)
言葉での指示は、短く、ハッキリと言いましょう。(長い文や不明瞭な言葉は混乱
を起こすので、一回にはなるべく一つの指示内容にします。)
B要求の先取りはしないで、子どもが要求を出せるようにします。(単語や喃語で)
言葉の出ない子は、サインや絵カード、動作やクレーン動作でも良いでしょう。
C家庭とも連絡を取り合って、学校の課題と家庭の課題を結び付けて活動をさせます
統一的にしないと、評価が人によって変わると不安になり、自閉性障害児は、それ
だけで混乱して、パニックを起こしてしまうことが多いです。
お手伝い的なことから始めて、時間はかかりますが家庭内の労働が出来るようにし
ます。水遊びから→洗濯やお風呂掃除、お米をといでご飯を炊飯器で炊く等も、高
学年になればできるようにしましょう。
D良い行動は評価してほめ、否定的な行動に対しては妥協しないで、社会で許される
行動へと転化させましょう。ダメのイメージ→ちょっと頑張ったらできた→次も頑
張ろうのイメージへと高めていきます。
自閉性障害児のこの時期、分かることを増やし、出来ることを身につける事が、以
後の不安の多い、新たなる世界への旅立ちの思春期、青年期を乗り越えるのにとて
も重要な基盤になります。
E幼児期から青年期まで、指導はゆったりと時間をかけて、本人が納得の行く取り組
みを基礎にします。性急な暴力での指導(体罰や言葉での脅迫)は、絶対に禁物で
す。デリケートな心を持つ自閉性障害児者には、時間をかけて根気強く、本人が理
解できる内容と方法を用いるべきです。(鉄則)
暴力で指導された人は、今度は自分が相手よりも大きくなり、体力がつくと、今度
は反対に、相手を暴力で自分の意思に従わそうとして、家庭内暴力などを引き起こ
す可能性が大きいですし、実際にそうなった家庭もあります。
(4)中学・高等部の時期の課題
思春期になり、様々な生活経験や教育の結果などから、幼児自閉性障害の特徴などが
軽減され、集団での規制が出来ることや、目で考えて見通す力が付いてきます。
また、同時に思春期の様々な荒れがでてくる時期で、自分の認識(実行したいと思う
こと)と行動(実際に自分でできる)の差から、思春期パニックを起こす場合もあり
ます。自他の違いが分かり、新たなる発達への旅立ちの時期でもあります。
@遊びから労働へと発展する時期なので、十分に体を使う教材を用意しましょう。
A家族の一員として位置づけて、炊事、洗濯、料理等の家庭内労働を分担させ、生活
力を付け、それらを実行することで自信と責任という概念と、労働への意欲を育て
ることが重要になってきます。
B体の成熟と合わせて、肥満や寡動の問題が起こってきます。この点を視野に入れて
体育やリズム運動などで体を動かすのが楽しい、とういう活動を取り入れましょう
体が柔らかくなると、考え方も柔軟になり、偏食なども減ってきます。
C男女共に体がホルモンの関係で、変化してくるので、不安になる人もいます。また
思春期の心と体の振れが大きい人もおり、医療との連携が必要になる場合もありま
す。体の変化や、性教育について分かりやすく指導してください。親や先生と同じ
大人になっていくのだ、という喜びを感じさせる性教育、命の教育をしましょう。
男子の自慰行為の指導や対応などは、自分も経験のある父親の出番です。女子の生
理への対応も、母親と同じような大人になるのだ、という喜びを持って対応できる
ようにしておくと、パニックにならない場合が多いようです。
D幼児期からのこだわりを利用して、この時期に趣味に発展させ、自由時間に自分で
楽しめることを獲得させますと、家庭や職場での空白の時間が無くなります。また
趣味を通じて、新たなる友達関係を広げられることもあります。
E幼児期から、小動物などを飼いはじめ、猫や犬の餌をやるなどの世話をさせて、動
物に対する可愛がり方を学ばせます。いつも人から愛情を受けるだけでなく、自分
からも愛情表現ができるように育てておきましょう。体が大きくなると、大きな動
物でも怖がらなくなり、自分からも愛情をもって飼育できるようになります。
人に対する愛情表現も、生活年齢に相応しい言葉や態度で、表現できるようにしま
しょう。いくら可愛がっても、動物や人は死ぬこともあるということを、体験とし
て理解させることで、命の尊さも理解できるようになります。大好きだった祖父母
が亡くなった場合でも、パニックにならず、亡くなった人を悼む気持ちが生まれ、
人に優しくなれたという報告もあります。
F将来、友達や好きな人等とレストランでの食事も出来るように、マナーやお金の支
払い方などについても、中学部から練習をしておく必要があります。
G自閉性障害児者本人が、分かること、出来ることが活動の根底になります。自閉性
障害の軽減したこの時期こそ、幅の広い、内容の豊かな教科教育を保障する事が、
自閉性障害児者の全面発達(人間としての)をさせることにつながります。
H単に与えられた労働をするのではなく(単純な訓練的な作業学習ではなく)、人間
としての人格を大切にした、発想(相談)や計画や実行、評価という労働への全過
程への参加が大切です。様々な場面に参加させることによって、全面発達をさせる
労働教育こそ大切です。人間として発達すれば、結果として自ら労働をする事を楽
しみ、就労する能力と意欲が付いて、思春期の壁を乗り越えて、新たなる発達をす
ることが、多くの実践から明らかになってきています。
3青年期の主な取り組みと課題
(1)青年期(第二の誕生)
思春期から青年期にかけて、急激な体の発達に気持ちが付いていけなくなることが起
こります。また、自我の発達と、実際に自分でできる事とのずれが大きくなる等の、
新たなる発達上の問題行動も現れてくる人がいます。別府哲先生はみんなのねがいの
本(2001年6月号)の中で「思春期の生理的変化や社会的なかかわりの変化は、
どんな障害をもつ人にも『自分とは何か』という問いをさまざまなレベルで引き起こ
す。変化の認識が難しい傾向になる自閉症の場合、まわりの対応の変化や自分の体の
変化に、とまどいや不安を感じることはさらに強いのではないでしょうか。障害を持
つ人、特に『問題』行動を起こす人ほど、とめられたりしかられたりする経験の中で
強くマイナスの自分を感じてしまう機会が多いからかもしれません。
そのストレスによって『問題』行動をさらに激しくし、そのことで叱られ、マイナス
の自分を一層感じる そんな悪循環に陥っている場合も少なくないのではないでしょ
うか。 中略 『問題』行動を押さえ込まれマイナスの自分を強く感じるだけの思春
期を過ごすのではなく、マイナスでない自分を発見し、自分の価値を作りだしてくれ
る他者との関係を作りながら、中、老年期を迎えていくことは、少なくない意味を持
つように思います。」と述べておられます。
@青年期には、知的な遅れと精神的な障害になる場合とに別れることが見られます。
自発性の欠如や寡動傾向等も見られます。こだわりがきつくなって、自分の世界を
守ろうとして、周りの世界に過敏に反応し過ぎたり、自分のやり方にこだわったり
して、自分を守ろうと特別の行動を起こしたり、耳を押さえて外界からの刺激から
防御しようとすることもあります。
A良い面では、大きな集団に入ることが出きるようになったり、集団の規制がきける
ようになったりします。さらに、自我の意識が出てくるので、自立しようという意
欲も出てくるようになります。
B暴力で小さいときに問題行動を押さえられてきた人は、青年期になり、自分が大き
くなると、今度は体力では相手を圧倒できるので、暴力で要求を通そうとします。
問題行動の規制は、時間はかかりますが、子どもが理解することを根底とした指導
をしておくことが大切です。暴力的な指導は、暴力的な自閉性障害児者を育てます
C私たち親や療育者や指導員は、子どもたちから見れば「一緒になって遊んでくれる
人、自分の要求をかなえてくれる人、信頼できる人。その人をモデルにするとうま
くいく 外界と自分とをうまくつないでくれる人」になることが大切なことです。
相手と一緒に遊びや労働をする、活動することが楽しいと思える、内面の発達とそ
の活動を支える技能を、この時期までにどれだけ身につけられるように保障してや
るかが、自立するために最も大切な事になってくるでしょう。
ですから、思春期・青年期に起こす問題行動は、怖がらないで積極的に対応するこ
とで、自閉性障害児者の新たなる発達を保障していくことにつながります。
てんかん発作や精神的な障害などの、医療的なケアーを必要とする場合も、起こっ
てくる場合が多くなりますので、医療との緊密な連携も必要になります。
(2)自我の目覚める時期に当たります。この時期は、労働が主たる活動になります。
これまでに獲得した力を、自分なりに発揮できる場を与えることで、意欲や判断力が
育ち、自立心が育ちます。自分の心を開き、エネルギーを十分に発揮できたり、支え
てくれたり、評価してくれる集団を必要としてきます。また、職場の集団参加などで
のストレスを発散させる、静かな場所や趣味も必要になってきます。自分の趣味を、
この時期までに育てておく必要があります。
(3)小さい時から、障害に視点を当てた指導を受けてきた人で、自分の身の回りのこ
とを自分で出来るようになっている人や生活体験を豊富にしてきている人は、自分で考え
たり、工夫する習慣が付いているので、私達が予想している以上に、大きな成長をと
げるひとも出て来ています。幼児期から長い見通し(10年ぐらい先を考えた療育)
のもとに、集団も保障されながら、綿密な個別の療育を受けてきた人は、予後の発達
が良い人が多いようです。幼児期から家庭生活上の技能を判断力をつけてもらい、家
庭の一員として家庭内労働を分担し、家族の一員として評価されて来た人は、障害の
軽重にあまり関係なく、自立の方向へ向かっている人がみられます。
(4)親の好ましい自閉性障害児への接し方を見て、兄弟も好ましい接し方を学びます。
★人に対する恐れや、過敏な特質を持っている自閉性障害児者に、その人の能力を越える
事を強要するやり方は、必ず不適応な問題行動やパニックを引き起こしかねません。
しかし、その一方では、新しいことに挑戦しなければ、進歩発達がありません。
自閉性障害児者に関わる人達は、障害児者に対しては、要求が多すぎても少なすぎても
駄目だと思います。理論と実践の両方から学びながら、その境目を歩んでいかなければ
自閉性障害児者の発達を保障することはできないと思います。これからも皆さんと手を
取り合って、発達の道を歩んでいきましょう。
きずな